イタリア2018年度総選挙結果を振り返る

 イタリアの国会にあたる元老院・代議院総選挙が2018年3月5日に実施されました。結果、与党だった中道左派連合は両院合わせ60%以上議席を失いました。対して、EU懐疑主義を掲げる五つ星運動や中道右派連合の同盟(旧:北部同盟)は議席を大きく伸ばすも、両陣営の議席が拮抗。議席過半数を獲得できず、ハングパーラメント状態となっています。

イタリアの議院内閣制度

イタリアの議会選挙

 本題に入る前に、イタリアの議会選挙制度を学びましょう。イタリア議会は上院に当たる元老院(定数315)、下院に当たる代議院(定数630)を比例選挙(一部小選挙区)制で選出する制度を採用していました。両議院の権限は対等で、共に任期は5年です。加えて、最多得票数を得た政党にはプレミア議席が割り振られ、政権与党を担っていました。しかし、2018年度選挙からプレミア議席が廃止され、比例2/3・小選挙区1/3の比率における議員選出へ変更。過半数の議席獲得が難しい新制度に移行しました。これは、旧来の流れを汲む政党が動いた結果で、台頭する五つ星運動を抑える意図が働いたのです。結果として、中道右派が僅差で第一勢力となりました。この流れからも、2018年度選挙によるイタリア政界の混乱ぶりが伺えるでしょう。

イタリアの内閣制度

 議会選挙制度に続いて、イタリアの内閣制度も抑えておきましょう。国家元首の大統領は、両議会と国内各州の代表者から選挙で選ばれます。任期7年を無事終えると、元老院の終身議員の身分を与えられます。ただ、大統領は議会内の仲裁が主な仕事で、象徴的要素が強い役職と言えるでしょう。大統領から指名され、議会で承認を受けた首相が、事実上の国家権限を持つ仕組みです。

 ちなみに、首相や国務大臣は国会議員から必ず選ばれる制度ではありません。2011年に就任したモンティ元首相は、国会議員から閣僚を選ばず内閣を立ち上げるなど。政治家に頼らず組閣できるのも、イタリア内閣の特徴と言えます。専門家を中心に構成された内閣は、当時叫ばれていた経済危機を防ぐという結果を出しています。

2013年度選挙前後のイタリア

 モンティ内閣によって回避された経済危機ですが、結果として国民は内閣へ強い反感を持つようになりました。年金改革、資産税の増税、解雇要件の規制緩和など、私生活に大きな負担をかける政策を推し進めたのです。そのため、中道右派の最大政党である自由の人民は、内閣が提案の経済政策をボイコットする他。国会議員が入閣していない内閣への批判が強まり、両院の任期終了直前にして解散総選挙が行われました。

 一方、社会風刺コメディアンとして長年活動してきたグリッロは新政党の五つ星運動を展開していました。2009年の結党時より世界初のインターネット政党として注目され、既存政党に対する不満の受け皿となった結果。若年層を中心に支持基盤を急速に広めていたのです。既に当時、ネットを通じて選定された候補が主要都市の首長選挙で勝利するなど。旧来の流れを汲む政党から警戒される対象となっていました。

 勢いに乗った五つ星運動は、結果的に両議院の議席中20%以上を獲得しました。対して中道右派は元老院では辛勝しましたが、代議院で中道左派に大敗しています。ただし、代議院で過半数を取った中道左派も、元老院での惜敗により単独で政権を樹立できませんでした。五つ星運動が早々に連立を拒否したため、結果的に中道右派と中道左派から、内閣を組閣する運びとなったのです。無論、思想的に相反する連立内閣に異論を立てる議員も少なくありませんでした。これを受け、中道右派の最大政党である自由の人民は内部分裂。結果として、ベルルスコーニ元首相を慕うフォルツァ・イタリアが復活しました。その他、反ベルルスコーニ派の議員が新中道右派を結党するなど、自由の人民は4政党に別れました。

欧州議会へ参加して五つ星運動は軟化した?

 2013年選挙によって大勢力へ躍進した五つ星運動も、支持者から非難されます。選挙戦終了後に連立政権樹立を拒否したことに対し、政権の空白化を助長していると不安視されたのです。翌2014年の欧州議会選挙でも17議席を獲得するも、政党同盟の加盟に苦慮しました。結果としてEU懐疑主義を掲げる新会派、自由と直接民主主義のヨーロッパへ加入する運びになります。同時に、前身会派に加盟していた中道右派の政党である北部同盟は加入を見送りました。

 会派加入後、五つ星運動は右寄りの政党との連携も重要視するようになります。五つ星運動は元々、左寄りの政策を執っているように伺える政党でした。その証拠に、2018年度選挙の結果も相まって、五つ星運動は同盟(旧:北部同盟)との連立が取り沙汰されています。柔軟な政治姿勢は、デジタル政党として左右の意見を共に取り入れる考え。そもそも、旧来の左右思想ではなく、合理的政治判断を重んじている表れかもしれません。ただ、欧州議会で右寄りの会派へ加入した影響は少なからず受けているのでしょう。

 その後も五つ星運動は2016年統一地方選で、ローマをはじめ主要都市の市長選に公認候補が数多く当選する結果に。既存政党のネガティブキャンペーンによって辞職へ追い込まれる議員も現れるも、高い支持率を維持しました。逆に既存政党は、腐敗した過去の政治への不信感の高さを明確にした。という、見方もできるでしょう。さらに五つ星運動は、二期務めたら政治家を引退することや、議員報酬の半分を中小企業支援基金に充てるなど。既存政党が手を付けなかった、社会貢献活動を党の方針として実施しています。実直にイタリアの社会問題へ向き合う姿勢が、既存政党との明確な違いを証明しているのかもしれません。

北部同盟の国民政党化

 五つ星運動の加入により、欧州議会で会派に所属しなくなったのが北部同盟です。2013年選挙の結果、中道右派の第二党になりました。しかし、第一党だった自由の人民が分裂した影響で、イタリア右翼としての動向に注目が集まっていました。北部同盟は元来、経済的に豊かなイタリア北部の人々が自治権拡大を訴えるため結党された政党です。90年代には結党者ボッシを中心に北部地域の独立宣言をするなど、度々過激な言動へ走った歴史を持ちます。以後、次第に勢いがなくなり党内派閥による争いが始まりました。

 2013年選挙前には、党内結束を徹底的に弱体化させる問題が判明します。党首であるボッシが政党資金を横領していたのです。結果的に党内の派閥争いは収束しましたが、政党支持率は大きく下落。中道右派第二党に滑り込んだとは言え、改選前議席の7割を失う結果となりました。その後、反ボッシ派からサルヴェーニが党首になると、各国の極右政党と連携の道を模索します。加えてEU懐疑主義を鮮明に打ち出し、南部に協力政党を作るなどの党内改革に着手しました。欧州議会での会派離脱は、党内改革よる影響でもあるのです。

 こうした動きは北部同盟本来の思想に反するとし、旧守派から反感を買う結果にもなりました。再び発生した党内争いは、結果として党の勢いを更に失速させるものとなります。2016年の統一地方選挙で、大きく大敗する結果となったのです。これを踏まえサルヴェーニは、党名から「北部」を取り「同盟」に変更すると波及。迫る2018年選挙へ向け、伝統的に掲げたロゴは使わず、北部郷土主義を排した選挙演説を展開しました。その結果もあってか支持率は急激に回復し、党単独で15%前後にまで上昇したのです。これには、分裂した自由の人民への失望感によるものも大きいでしょう。ですが、サルヴェーニの国民政党への転換路線がなければ、同盟の支持率は回復しなかったかもしれません。

2018年 五つ星運動 対 既存政党

 インターネット社会を重視し、既存イタリア政党にない社会貢献意識を柱とする五つ星運動の隆盛。加えて同盟(旧:北部同盟)の国民政党化は、イタリア議会に衝撃を与えるものでした。新興勢力を恐れた旧来の既存政党は自らの議席を守る一手として、議会解散前に選挙制度を改正。比例選挙で選出される議員数を全体の2/3までとし、残り1/3を小選挙区制で選出する制度に変更したのです。五つ星運動はこの時、党首がグリッロから年齢31歳のディマイオへ引き継がれたばかり。既存政党は政治経験の少ない若者が率いる政党に信頼がおけるのかと、世論喚起する狙いも含んでいたのです。しかし結果的には、五つ星運動の支持層である若年層への支持基盤を固める要因になりました。

 迎えた2018年選挙。結果は選挙前の予想通りとなりました。中道右派の自由の人民と同じく内紛状態となっていた、中道左派の民主党は与党から陥落。憲法改正議論により受けたダメージを回復できず、中道左派全体で292議席失いました。自由と人民もフォルツァ・イタリアなどに分裂しており、結果的に存在感が薄れました。変わって、中道右派の第一党に躍り出たのは政党内改革を進めた同盟です。フォルツァ・イタリアは選挙後、同盟が推薦した人物をイタリア党首選挙で投票することを明言するなど。サルヴェーニの党内改革は、同盟にとって勢力を拡大する結果につながりました。

 そして五つ星運動は見立て通り、政党として議会第一党になりました。ただ、プレミア議席廃止などの選挙制度変更が影響し、連合としては中道右派より少ない議席数となりました。結果として議席過半数が取れず、単独での政権運営が困難なハングパーラメント状態になったのです。五つ星運動の支持層が南部中心という点もあり、一時は北部が支持層で同じEU離脱を掲げる同盟と連立を模索します。しかしディマイオは、政権連立候補として敗北した民主党を挙げたのです。グリッロ党首時代、既存政党と相容れない方針を是にすることで五つ星運動は支持を急速に集めました。ですが、ディマイオは柔軟な姿勢へ方針転換し、早期の政権樹立を目指しているのです。これは前回選挙で連立を拒んだが故、既存政党内の分裂抗争につながったことを反省した結果なのでしょう。同時に既存政党との連立は、腐敗政治からの脱却を掲げる五つ星運動にとって大きな障壁となりかねません。どの政党と連立を組むかによって、今後の五つ星運動の評価は大きく変わるでしょう。

長年の社会問題 新たな社会課題

 政権与党となった五つ星運動ですが、イタリアの国内課題は山積しています。長年停滞しているイタリア経済の立て直し。喫緊の難民問題は、内閣成立後すぐに取り掛かる必要があります。さらに、EU懐疑主義によってイタリアのEU離脱を支持する国民も増えています。仮に同盟と連立を組めば、同様に反EUを掲げる二大政党によってEU離脱選挙への動きは加速するでしょう。ディマイオが構想する内閣は、欧州の安定に寄与するのか。今後の動向が注目されます。