いつでも韓国は経済破綻の危機? ~財閥形成からヘル朝鮮まで~

 「ヘル朝鮮」、「神日本」…。2010年代に入り、経済危機によって就職難に苦しむ韓国人の若者が広げたネットスラングです。いつしか社会現象になった言葉ですが、韓国の経済危機は今に始まったことではありません。アジア通貨危機が起きた90年代から、韓国経済はいつ破綻してもおかしくない。ジリ貧の財政運営が続いているのです。

財閥企業が率いてきた韓国経済

 韓国経済の危機を知るには、韓国財閥の成り立ちを知る必要があります。太平洋戦争が終わり、朝鮮戦争が勃発するまで。設立間もない韓国政府と癒着関係にあった地主、株主へ優先的に日本人が所有していた財産が分配されました。程なく朝鮮戦争が勃発して、韓国は第二次大戦後最初の経済破綻危機を迎えます。当時、国民の多くが土地を無たない農民だったため、いつ飢えて死ぬか分からない。旧日本統治時代から変わらない状況に、多くの人々は怯えていました。一方で朝鮮戦争休戦後、政府と癒着していた地主や株主はアメリカからの経済支援を糧に事業を拡大。農作物を加工して販売する「三白産業」で急成長し、後発企業へ参入障壁を設け利益を独占しました。先行した癒着実業家たちは財閥を形成し、韓国経済をリードしていく立場となったのです。

 土地持ち農家が増えた60年代になると、財閥企業が多くの農産物を農家から安値で買い取るシステムが固定化しました。自らの土地を保証されながらも、いつ家計が破綻してもおかしくない。多くの韓国人の生活状況は苦しいままでした。そのため、西ドイツへの出稼ぎや、アメリカからの経済支援目的でベトナム戦争に軍を派兵するなど。農村部の住民を中心に、重い負担が圧し掛かりました。反面、一般人の犠牲を基に獲得した支援金は、財閥企業主導のインフラ開発へ投資されます。重科学工業の発展が韓国全土で進められ、いつ知らぬうちに農民は工業団地の従業員へと変化。80年代には国民の年間所得平均が1000米ドルを超え、産業も重化学工業の比率が過半数を超えるなど。政府からの税制優遇もあり、財閥の体制は盤石化。家計事情の破綻を心配する声も、いつ知らずのうちに小さくなりました。

 ただし、中小企業の育成を積極的に支援しなかったこと。重化学工業化へシフトする過程で、政府と財閥の癒着がさらに強固となったこと。経済危機は脱したものの、アメリカを中心に外国の借入金が重なったことなど。後に経済危機をもたらす遠因が、いつの間にか70年代~80年代の高度経済成長期を通じて揃っていました。

3低好況が経済破綻危機のダメージを大きくした?

 日本のバブル期と同じくして、韓国でも3低好況と呼ばれる好景気が押し寄せました。1985年のプラザ合意で米ドル安が抑えられた結果。円高ウォン安の進行、借入の返済に付随する国際金利額の減少、輸入される石油価格の低下など。輸出産業が儲けが増え、サムスンや現代を筆頭に財閥は海外進出を活発化させました。円高で貿易に苦しむ日本を尻目に、韓国の自動車企業は北米市場へ。後に海外シェアを伸ばしていく足掛かりとします。さらに半導体産業の成長が目覚ましく、半導体大国として地位を築き上げる土台が完成しました。

 しかし、好景気はいつまでも続きません。ソウルオリンピックが1988年に終わると、貿易黒字の反動で、ウォン高、金利高、物価高となり韓国経済は減速。60年代から暗黙で取引されていた大量の闇金も、金融実名制度が導入され摘発者が続出しました。急速な経済発展の裏、不足する投資金として蓄えられていた闇預金の取引を禁じたのです。加えて、韓国内で人件費が高騰し、東南アジアや中国へ工場を移さざるを得ない状況となりました。3低好況で海外へ進出した財閥は、いつ知らずに国外企業との競争に突入していたのです。低コストの生産拠点を持つことは、今後の海外展開を見据える上で必須条件でした。

 好景気から始まった海外進出は、韓国経済を急激に成長させたことに間違いありません。ですが、反動により金融の透明化が求められ、国外拠点の開設を急かされました。また、アメリカなどから借りている巨額の借入金返済額は年々増えていました。過度に輸出産業へ拍車をかける破綻のリスクを持った経済が、アジア通貨危機の影響を受ける素地となったのです。

アジア通貨危機の前兆

 政府と財閥の癒着は、金融業界の官僚化を推し進める主要因となりました。ここまでの話から、財閥の命令で政府が横領資金を渡す構図は想像し難くないでしょう。しかし、闇預金など不透明な資金が仇となり、経済協力開発機構(通称:OECD)の加盟に二の足を踏みました。裏金を堂々と公共投資で運用している国は、いつか財政破綻しかねない。OECDは加盟条件として、政府と財閥で回していた資金を国際市場へ開放するよう求めたのです。条件を飲んだ韓国は、国際経済の波にさらされる状況に陥りました。

 同時に90年代は国際企業が低コストの生産拠点を求め、東南アジアへ湯水の如くお金を投資していました。対して東南アジア諸国は、先進国の借入金が積み重なり、自国通貨が安くなると経済が回らない状況に。財政破綻へ危機感を募らせつつも、アメリカなどの債権国に対して返済の先延ばしを望んでいました。しかし、アメリカは取り立てを強行する財務政策を1995年に実行し、東南アジア経済を冷え込みます。当然、アメリカから多額の出資を受けていた韓国も影響を受けました。こうした動きは、それまで固定相場で米ドルと取引していた東南アジア諸国の通貨にも影響を与えます。投資したにも関わらず、固定相場の影響で損をしている。国際企業や先進国の投資家が抱いた不満は、正当な投資効果が図れる変動相場へ変える様。東南アジア諸国へ迫ったのです。

 そして韓国は当時、自国の財閥企業が不用意に海外進出しつつも、海外からの増大する借入金で経済を回していました。経済自由化を急いだが故、韓国は企業の利益が上がらず、諸外国への借金返済に駆られる。二重苦を味わうと共に、国家財政破綻の危機を迎えます。

長い経済危機の始まり

 シビレを切らした投資家達は、ついにタイの通貨バーツを大量に売りに出す流れを作ります。これ以上のバーツ安を防ぐため、タイ政府はやむを得ず1997年7月に変動相場を導入。いつ突入しても不思議ではなかった、アジア通貨危機が始まりまったのです。

 すでに韓国では、前兆となる経済打撃を受けていました。1997年の年始早々、財閥企業の韓宝製鉄が、3月には三美グループが倒産しました。アジア通貨危機が広まってからは、起亜自動車、大宇グループなど、韓国の名だたる企業が倒産していきます。米ドルとウォンの変動相場も、11月は1米ドル=800ウォンだった相場が、12月には1米ドル=2000ウォンに。通貨の大暴落に歯止めがかかりませんでした。緊急の対策として、韓国は国際通貨基金(IMF)から約195億米ドルの融資を打診。1米ドル=1000ウォン前後で相場は安定したものの、IMFは韓国経済へ厳しい構造改革を突きつけました。何より大きかったのは、派遣労働制の導入を勧められたことです。同時に、ベンチャー企業支援制度の創設など、癒着経済の打破が進んだのは間違いありません。しかし、政府が財政破綻の回避のため導入された非正規雇用制度は、後に韓国の若者に「ヘル朝鮮」言わしめる原因を生み出したのです。

劣悪化する雇用

 銀行の整理統合、財閥の解体、ITベンチャー企業への出資など。アジア通貨危機の後に訪れたウォン安で景気も回復し、韓国はIMFの借入金を2001年に全額返済します。同時にサムスン電子をはじめとする半導体企業が世界をリードし始め、韓国経済は最大の破綻危機を回避します。一方でIMFの財務改革は約150万人もの失業者を生み出して、雇用危機も煽りました。政府は対策として、青年向け職業訓練の実施など。00年代から青年層総合失業対策に乗り出し、失業者の技能定着を狙いました。ですが、課題化している中小企業への人材投入が進まず、国民も政府の施策に疑問を抱き始めます。

 加えて、従業員を低賃金で働かせる財閥の慣例を拭い去ることができませんでした。IMFの指導で導入された派遣労働制に加え、各企業が財務体質の改善を優先させるために非正規雇用を増やすなど。00年代前半には、韓国の給料生活者のうち過半数が非正規労働で働く状況に陥りました。また各企業も再びの経済破綻の危機に備え、社内の人材育成投資を控える動きを加速させたのです。経済成長率もIMFへの返済等が影響し、好転しませんでした。仮にアジア通貨危機レベルの経済動乱が発生すれば、いつ国家財政が間違いなく破綻する様相だったのです。

 一方で、若者世代の高学歴化も急速に進行します。政府が90年代に行った大学設置要綱の規制緩和により新設された大学や学部を卒業後。社会人となった若者が年々増加しました。ですが、いつ経済破綻の危機か訪れてもおかしくない状況下で、企業は非正規雇用を年々増加させます。結果、正社員採用を望みながらも、非正規で働かざるを得ない高学歴の若者が増加したのです。さらに、リーマンショック後の不況は若者達に追い打ちをかけました。低賃金で使い倒されることが明白な求人が増え、大卒向けの求人は減り続けたのです。当然、卒業後すぐ職へ就けない高学歴層、しわ寄せで低賃金の非正規で働く立場となる高卒層が多くなります。いつぞ知らずに彼らは、自らを「三放世代」と名乗り始めるのです。

希望を無くす「ヘル朝鮮」

 リーマンショックが災いし、2007年にはウォン相場が急落。「韓国通貨危機」が発生しました。財政破綻の危機に苦しみながらも政府は「経済革新3か年計画」を打ち出し、勢いあるIoT産業などの支援を優先させます。再びの通貨危機を脱して反動で景気は回復したものの、80年代の日本と同じ不動産バブルが続く状況に。人々は行き着くところで景気上昇が終わり、財政が破綻するのではと。危機感を募らせました。同時に、正規雇用と非正規雇用の経済格差は広がり続けました。政府の政策と現実との乖離は、いつ知らないうちに若者が希望を見いだせない風潮を生み出したのです。安定した職に就けず、「恋愛」・「結婚」・「出産」を諦める。人生設計上、3つのライフイベントを捨てる「三放世代」は韓国経済の停滞を象徴する言葉として定着しました。さらに、「就職」・「マイホーム」を諦める「五放世代」、「人間関係」・「夢」を諦める「七放世代」と。不動産バブルの過熱と並行して、いつ知らないうちに捨てるライフイベントの数は7つにも増えました。

 そして、数では言い表せない程のライフイベントを捨てざるを得ない状況を飲み込んだとき。若者たちは新たな流行語「ヘル朝鮮」を生み出したのです。元々「ヘル朝鮮」は、旧日本統治下の朝鮮社会を指す言葉でした。しかし、過剰な学歴志向、非正規雇用の増大、自殺者数の増加など。何をしても報われない韓国社会は、まさに生き地獄そのものへ成り果てたのです。努力しても無駄という意味で「努~力」というネットスラングも、いつ知らないうちに韓国内で広まる様相となりました。

 朴槿恵が癒着事件で逮捕された後、韓国は対外貿易政策もことごとく苦戦を強いられます。アメリカには保護関税を導入され、中国との関係も悪化の平行線。国内の需要は冷え込み、雇い止めは相次ぎ。いつの間にかアジア通貨危機以来となる、135万人規模の失業者を韓国は生み出しました。文在寅政権は公務員の採用枠を増やすなど。雇用対策に乗り出していますが、更なる経済悪化を助長する不動産バブルが崩壊の危機を迎えています。このまま貿易産業が後退し、不動産バブルが弾ければ、韓国は本当に財政破綻の危機を迎えるでしょう。

「神日本」が意味するもの

 2018年度に卒業した日本の新卒就職率が、第二次大戦後最高の98%に達しました。これに対し韓国国内では、雇用情勢が安定している「神日本」だと。以前から、日本を持ち上げる際に使われていたネットスラングが話題となっています。しかし昨今、日本国内も非正規雇用が増加しています。にも関わらず、韓国の若者が新卒内定率の高さをジョークで取り上げるのは、迫りくる経済危機への失望。韓国ではなく海外の、特に日本企業へ就職する流れが加速している表れなのかもしれません。長年、経済危機が叫ばれてきた韓国ですが、今度ばかりはいつ破綻してもおかしくないのです。いづれにしても、韓国が財政破綻する様な状況となれば、反動は間違いなく日本にもやって来ます。北朝鮮関連のニュースに気を取られがちですが、注意深く見守りたいものです。