トランプ弾劾とロシアゲート事件をフリン元補佐官側から見る

 アメリカ国内では2018年に入り、トランプ大統領の弾劾にアメリカ国民の注目が集まっています。2016年の大統領選から、トランプ陣営がロシア政府より支援を受けているのではないか。疑念はフリン元大統領補佐官が訴追され、疑惑の調査は核心に迫ろうとしています。この記事では、弾劾が持ち上がったフリンに触れつつ、ロシアゲートを見て行きます。

ロシアゲート事件の詳細

 そもそも、今回の弾劾騒動を理解するにはまず、ロシアゲート事件について知る必要があります。トランプ弾劾のニュースがアメリカ国内のみならず、なぜ国際的に注目されているのか。詳しくない人も多いと思うので、触れておきましょう。

 事の発端は、2016年のアメリカ大統領選挙。クリントン陣営へ不利に働くフェイクニュースがネット上で出回ったことから始まります。これがロシア軍参謀情報総局による、クリントン陣営関係者への選挙戦妨害の可能性があると。当時アメリカ国家情報長官だったジェームス・クラッパーが、アメリカ国土安全保障省の調査で判明したと発表します。程なくしてクリントン陣営は敗北し、トランプ陣営が勝利する運びとなりました。その後も調査は進み、12月にアメリカ中央情報局(CIA)がロシア軍参謀情報総局所属のハッカー達による攻撃だったと。記述された報告書をワシントンポストが入手し、スクープとして発信しました。他国がアメリカの政局に介入するあるまじき事態に、アメリカ国内では大きな関心事となります。

 表沙汰になれば弾劾は避けられない行為を誰が主導したのか。トランプ政権が誕生してからも、各州の大統領選投票にも絡む事態と判断したアメリカ連邦捜査局(FBI)も調査に乗り出だします。一方でトランプ大統領は、ロシアからの選挙介入は無かったと誇張し続けました。しかし、事態はすぐに動きます。トランプ政権のマイケル・フリン元大統領補佐官が、ロシアのセルゲイ・キスリャク元駐米大使と密談したことが問題となったのです。同時に選挙戦でのロシア政府と協力した疑惑が強まりました。さらに以後、トランプ政権がFBIの調査に圧力をかけていることが見えてきたのです。事実、2017年5月にロシアゲート調査を主導してきたジェームス・コミー元FBI長官が解任に追い込まれています。

 ロシア政府と関係を築き、クリントン陣営を不利に立たせ、FBI長官を解任する。トランプ政権が行った3つの問題点は、アメリカの選挙プロセスを破綻させかねない。前代未聞の政治問題として、世界中を震撼させているのです。特に2017年2月、早々に役職の辞任へ追い込まれたフリン元大統領補佐官は訴追され裁判を受けています。ロシアとのコネクション作りを主導したフリンの弾劾裁判は、真相解明に向けて重要な局面だと考えるアメリカ人は少なくありません。

マイケル・フリンの歩みとロシア癒着

 弾劾裁判を受けることになったマイケル・フリンは、トランプ陣営の軍事顧問として雇われた人物です。選挙期間中はトランプ陣営の戦略官として。政権樹立後は、国家安全保障を担当する大統領補佐官としてトランプを支えてきました。

 フリンは軍の高官出身ではありますが、元々予備扱いから軍隊生活を始めています。出身地にあるロードアイランド大学経営学部で、フリンは予備役の軍事カリキュラムも同時に受講して卒業。アメリカ陸軍へ入隊し、サンフランシスコのゴールデンゲート大学で経営学修士号を取得しました。高級幹部養成校であるアメリカ陸軍指揮幕僚大学などで学んだ後、情報部隊員として駆け上がっていきます。イラク戦争の際は諜報作戦の指揮を執り、途中で中央軍へ転属して諜報部隊をまとめ上げてきました。2011年には中将へ昇進し、アメリカ国防情報局長官に任ぜられます。以後、アラブの春などの対応をしていく日々を過ごし、中東事情に精通した諜報官として名を馳せました。ただ一連の戦争から、イスラム教徒には強い嫌悪感を抱く様になったようです。トランプもフリンと同じく、アメリカを脅かすイスラム教徒を排除する考えを押し出しています。好意的な印象を持って軍事顧問を依頼したことは、容易に想像できるでしょう。

 ただ、当時のオバマ政権にとってフリンのイスラム教徒への考えは、非常に危険なものだと認識されていました。フリンは長官職を2年で更迭され、2014年にはアメリカ陸軍を退役しました。その後フリンは、息子と共にコンサルタント会社を設立。関係の深かったトルコのエルドアン大統領に関連した事業などのアドバイザーを務めます。同時に、ヴォルカ・ドニエプル航空、ネットセキュリティ企業のカスペルスキーなど。次第にロシアの大企業ともコンサル業務を請け負うようになります。極めつけは、ロシア政府が出資している英語放送局「ロシア・トゥデイ」で講演会のゲストとして参加。高額の講演料を得た上に、ロシアのプーチン大統領と隣り合って座るシーンも放送されました。この時点から、弾劾の遠因となる関係が築かれつつあったと言えるでしょう。アメリカ大統領選の際には、ロシアだけでなく、トルコからも資金調達があった疑惑も浮上しています。

 こうしたフリン個人のロシアやトルコとの蜜月関係に、オバマ元大統領の懸念は更に高まっていました。既にロシアからのサイバー攻撃が話題となっていた2017年11月。オバマ元大統領は、フリンの国家安全保障担当者として不適格だと声明を出しています。弾劾裁判沙汰になっては事態の収拾がつかない。任期終了間近だったオバマは警鐘を鳴らしましたが、トランプ陣営は聞く耳を持ちませんでした。そもそも、ロシア政府の援助があって大統領当選を果たした疑いのあるトランプが、聞くわけがありません。結果、フリンは大統領補佐官へ就任し、政局を混乱させる弾劾裁判が開廷されることになるのです。

ローガン法違反により弾劾の声高まる

 争いある海外政府とアメリカ国籍の個人が、海外でアメリカ政府の許可なく政策外交することを禁ずる。違反した者は国家の重罪を犯したと判決されるローガン法は、アメリカの国益を守る要となる法律です。しかしフリンは、2016年の年の瀬にこれを違反しました。

 元ロシア駐米大使のキスリャクと、電話による密談を行っていたのです。そして、オバマ政権が行ったロシアのサイバー攻撃に対する報復措置の撤回など。トランプ政権発足を待たずに、外交交渉を開始した疑いが強まったのです。対してフリンは茶を濁し、トランプ大統領もフリンを守ろうとしました。ですが次第に客観的事実が突き詰められると、2017年2月に大統領補佐官を辞任します。ロシアゲートの説明でも記述したように、コミー元FBI長官率いる捜査チームが動きを活発化させたのです。ローガン法の違反を疑われたフリンの行動により、トランプ大統領を弾劾しようとする機運が高まります。それでも、トランプ大統領は再三「彼は悪くない」と、先に弾劾されかねないフリンを擁護しました。

 そして世論に圧され、2017年5月にフリンはアメリカ情報委員会から召喚を受けます。対してフリンは黙秘権を行使すると示しましたが、情報委員会からは侮辱罪を問う可能性を示唆する事態に。これにトランプ大統領が動き、委員会の前日にコミー元FBI長官を電撃解任するという暴挙に走ったのです。ロシア政府との癒着問題解決を遅らせる行為に当然、全米から反感の声が挙がりました。この一件以後、トランプ弾劾の世論は一気に盛り上がり、メディアも批判を強めます。

被告人マイケル・フリン

 コミー元FBI長官の解任劇が起こりましたが、アメリカ司法省はすぐに捜査体制を立て直します。コミー元FBI長官の前任だった、モラー元FBI長官を特別検察官に任命して弾劾に向けた捜査を再開したのです。

 フリン自身も更に追い詰められます。2017年11月には、モラー特別検察官はロシアゲートの弾劾だけでなく。フリンが経営するコンサル会社が、トルコの政府関連団体と密接な利益関係にあるなど。弾劾の対象となる罪を助長した取引についても訴追すると発表。この時点でフリン側の弁護士は、これ以上何の反論できないとトランプの弁護団へ報告します。そして翌12月、マイケル・フリンはローガン法違反の罪で弾劾裁判にかけられる運びとなりました。キスリャク元駐米大使と密談したことを認め、トランプ陣営のクシュナー上級顧問からの指示だったことを明かしたのです。同時にロシアゲートの弾劾調査に協力する姿勢を示し、刑を軽くしようと動きました。擁護してきたフリンが情報提供者となり、トランプ政権の運営は厳しさが増す事態となったのです。

弾劾に備えるトランプ大統領

 フリンの弾劾裁判が起きてから、トランプ政権はモラー特別検察官の弾劾捜査へ急ぎ対応を迫られています。2018年3月には、ビル・クリントン元大統領の弾劾裁判に関わった弁護士と面会。弾劾に向けた対策を練っているとも報じられました。さらに政権支持率が30%代にまで落ち込み、11月に行われる中間総選挙をトランプは警戒感を強めています。日本の報道では北朝鮮外交のニュースが先行しがちですが、トランプ政権の足元は常に安定していないのです。