北朝鮮の水爆実験・核ミサイル開発をアメリカ会談前に確認する

 来る2018年6月12日、アメリカと北朝鮮が歴史的会談を開催すると世界から注目されています。北朝鮮はこれまで水爆実験、ミサイル発射など。核兵器実験を巧に活用し、アメリカや周辺諸国を挑発し続けました。ですが度重なる経済制裁も効いてか、北朝鮮は対話優先の方針に切り替えています。そもそも、北朝鮮はなぜ核兵器開発に躍起となっていたのでしょうか。

原爆と水爆の違い

 北朝鮮のニュースを見聞きすると、核兵器の話題は常に持ち上がります。ですが、ミサイルは想像がついても、水爆は原爆と何が違うのか。分からない方は多いのではないでしょうか。水爆実験の話に触れる前に、原爆と水爆の違いを抑えておきましょう。どちらも核兵器には変わりないのですが、水爆の方が原爆よりも強力と考えるのが普通です。旧ソ連が1961年の実験で爆発させた水爆「ツァーリ・ボンバ(皇帝の爆弾)」は、広島型原爆「ファット・マン」の約3300倍の威力を誇りました。強大な爆発力が懸念され、実験では最大出力の半分で爆破されたことからも、水爆の脅威が伺えるでしょう。

 また、製造や実験は原爆の方が簡単だと言われています。正式名称の原子爆弾が示すように、原爆はウランやプルトニウムなど。世の中で言う核物質を主原料とした爆弾です。電荷を帯びない中性子という素粒子で核物質を分裂させ、新たな中性子を作り、別の核物質にぶつけていく。核分裂連鎖反応を高速で繰り返し、爆発させるのが基本の仕組みです。第二次大戦中にアメリカ軍が開発を進め、1945年のトリニティ実験後、広島と長崎へ実戦投下されました。その後、アメリカと旧ソ連を中心に実験が繰り返され、キューバ危機では核戦争が開戦間際と騒がれる事態に。部分的核実験禁止条約が1963年に締結され、原子爆弾の実験を制限する動きが加速しました。

 部分的核実験禁止条約では、水爆実験も同様に制限対象とされました。水素爆弾の名称から分かるように、こちらは水素を原料としています。水素化合物同士を融合させ、ヘリウムと中性子、エネルギーを放出させて連鎖反応を起こしていく。核融合反応を活用した仕組みの爆弾です。ただし、水素の核融合反応だけでは容易に巨大爆発を起こす威力にはなりません。小中学校の理科実験を思い出してみてください。空気中の水素に火を近づけると燃え広がる様を記憶している方は多いでしょう。水爆の着火には、核融合反応の勢いを凌駕する熱源と圧力が必要なのです。そのため通常は水爆内部に核燃料が積まれており、核物質を炸裂させてから水素爆発を引き起こす仕組みとなっています。

 また、ウランなどの核分裂連鎖反応には、核燃料が尽きると反応が終わる欠点があります。対して水素による核融合反応は理論上、化学反応の連鎖に制限がありません。東西冷戦時代、際限なく威力を高められる水爆にアメリカや旧ソ連が注目していた理由もうなずけます。こうした水爆の優位性をよく理解して、北朝鮮は核実験に精を出してきたのです。

北朝鮮が歩んできた核実験の歴史

 北朝鮮が金正恩体制に移行して以降、核実験や弾道ミサイル発射回数は格段に増えています。先代である金正日の頃は、パキスタンでの代理核実験疑惑を含めても核実験は3回、ミサイル発射は4回でした。ですが金正恩が国家元首となってから、水爆実験も含まれる核実験が4回、ミサイル発射に至っては6回も断行されています(2018年6月現在)。慎重な外交政策を執っていた金正日体制から一転し、金正恩は軍事強国の誇示とも取れる挑発を繰り返してきました。

 そもそも、北朝鮮が核やミサイル開発を開始したのは旧ソ連が崩壊が始まった時期から。大国の後ろ盾が無くなり、アメリカと向き合うには核ミサイルの保持しかない。北朝鮮の創始者である金日成が健在だった頃に下された判断は、一族3代に脈々と引き継がれました。

 1993年にミサイルが初めて発射されて以降、1998年、2006年、2009年と実験が繰り返されていきます。核実験も1998年に実施されたパキスタンの代理実験疑惑を皮切りに、北朝鮮国内では豊渓里(プンゲリ)で2006年、2009年に実験されてきました。ただし、金正恩体制となる以前の実験には、明確なメッセージが込められているケースが大半でした。1998年のミサイル発射は北朝鮮側が言うところの、人工衛星打ち上げによるもの。2006年に実施された核実験では、アメリカ政府による北朝鮮関連の金融口座凍結による反発でした。

 金正恩体制へ移行してからも、2012年に断行した2回のミサイル発射は人工衛星の打ち上げと謳いました。翌年の2013年には、金正恩体制となって初の核実験が行われます。同時に、核爆弾の小型化に成功したと。北朝鮮寄りの報道機関が報じ、ミサイル弾頭に詰める核爆弾の開発が進んでいると国際的な議論に。アメリカの政権を担っていたオバマ大統領も、実験の度に避難声明を発表しています。当時、アメリカのオバマ政権は、北朝鮮の軍事挑発に対しては徹底して無視する方針を立てていました。ですが、オバマ政権末期に行われた北朝鮮が発表したところの水爆実験より、アメリカの態度に変化します。

北朝鮮初の水爆実験に残る謎

 「水爆実験が正常に行われた」。北朝鮮の朝鮮中央テレビは2016年1月6日に「特別重大報道」と題し、水爆実験が成功裏に終わったと報じます。事の重大さにアメリカは遂に軍事行動に出ました。韓国と日本が実態調査へ動くと同時に、アメリカは空母艦隊や戦闘機を派遣するなど。それまでにない防衛体制を敷き、北朝鮮を警戒しました。国連も北朝鮮の度重なる軍事挑発に対し、経済制裁などを検討し始めます。

 ただ、韓国軍の調査結果では、爆発による地震規模、飛散した核物質の量など。過去の水爆実験と比較して、影響が小さいとの調査結果をまとめています。ミサイル発射の口述で使われた、人工衛星打ち上げが嘘だったことが何度もある北朝鮮。今回の水爆実験もハッタリだった可能性がある。緊張感を高めながらも、国際社会は水爆実験成功に懐疑的な見方をしました。

 その後2月にミサイル発射を断行した北朝鮮を警戒し、アメリカと日本はミサイル迎撃システムの配備を決定。韓国にはTHAAD、日本ではPAC3が日韓各地に。海上でもイージス艦が日本海と太平洋へ展開されました。すると北朝鮮からのミサイル発射は一端止まり、夏を過ぎても挑発的軍事行動が見られなくなります。この期間、北朝鮮は航空燃料、石炭、鉄鉱石など。国連から制裁として、ミサイル開発に必要と思われる資源の輸入制限を受けていたのです。

 にも関わらず、北朝鮮は制裁に対して軍事行動で応えました。2016年9月9日、北朝鮮は建国記念日のタイミングで核実験を実行したのです。この時に観測された爆発エネルギーは、1月の水爆実験と比べて約2倍と韓国気象庁が発表。北朝鮮の核実験としては、過去最大規模の爆発が観測されました。当然、国連は更なる重い制裁として、銅、銀、ニッケルなど。重工業を支える鉱物の輸入を全面禁止とします。また、外貨獲得の手段にも重い制裁が科されるなど。北朝鮮財政は八方塞がりの状態に追い詰められていきます。

トランプ政権樹立で状況が激変

 国内財政の急激な悪化を懸念してか、北朝鮮の水爆実験やミサイル発射は暫く鳴りを潜めます。同時期、アメリカでは異色のビジネスマン。ドナルド・トランプが大統領へ就任しました。すると2月12日、初の固形燃料ミサイル発射実験を皮切りに、2017年だけで合計16回ものミサイル発射を実施します。

 対してトランプ大統領は4月、空母カール・ヴィンソンの艦隊を西太平洋へ派遣。アメリカ軍の初動に、韓国軍と日本の自衛隊も合わせました。タイミングで合わせるように北朝鮮も5月14日。核弾頭が搭載できる大陸間弾道ミサイル「火星12」を初めて発射しました。空母艦隊を派遣してもミサイル発射を止めない姿勢に、トランプは追加で空母ロナルド・レーガンの艦隊を派遣。アメリカ軍の空母艦隊が2艦隊同時に日本海へ展開する事態となります。

 他方、北朝鮮のミサイル発射に歯止めがかからない現状から、国連は6月に追加制裁を決議しました。北朝鮮の核開発に関わったとされる組織に対する資産凍結など。これまでにない厳しい制裁を科したのです。さらにウクライナから、闇市場を経由してミサイルエンジンを入手した疑いが強まります。

 それでも北朝鮮は、グアムを念頭に置いたミサイル発射実験を8月に実施。アメリカ本土の攻撃を示唆する行動に出ました。この動きに国連は、北朝鮮産の鉄鉱石や海産物など。産業基盤を支える物品の輸出販売を全面禁止とする。強力な経済制裁を科し、北朝鮮経済の停滞を狙いました。

マグニチュード6.3の衝撃

 水爆実験などの軍事挑発を行っては、国連からの経済制裁を受ける。2016年頃より北朝鮮が行ってきた水爆やミサイルによる挑発は、報復を報復で返す連鎖となっていました。一方で、生活が苦しくなった北朝鮮の国民が、日本の領海にまで船を出して海産物を水揚げするなど。国内の経済状況悪化を伺わせる国際問題も発生しました。

 一方、地方民の生活が困窮しているにも関わらず、金正恩は軍事的メッセージを発信し続けます。2017年9月3日、北朝鮮の核実験場がある豊渓里(プンゲリ)周辺を震源にマグニチュード6.3の地震が観測されました。北朝鮮が水爆実験を再び強行し、弾道ミサイルに積む水爆の完成が近いと。朝鮮中央テレビを通じて発表しました。その後の調査から、前回2016年9月の水爆実験と比べて約10倍。2016年1月の水爆と発表した核実験と比べて約20倍の爆発エネルギーを観測したことが判明。わずか21ヶ月ほどで、急激に水爆の威力が上がっていたのです。

 間髪入れずに北朝鮮は2017年9月15日に「火星12」を太平洋へ向けて発射。これをもって、核ミサイル戦力の完成はほぼ終着点に到達したと声明を出しました。これまでの経済制裁だけでは効果がないと判断した国連は、ついに北朝鮮出稼ぎ労働者の受け入れ禁止を各国に要請。石油の輸入制限も設け、国連総会ではトランプ大統領のロケットマン発言も飛び出しました。

 ロケットマン発言に北朝鮮は、国家元首への侮辱だとトランプに猛反発します。事態を察してか、トランプはすぐに空母3隻を含む大艦隊を再び太平洋へ。11月に米韓合同軍事演習を朝鮮半島近海で実施しました。「トランプは理性を失った」。北朝鮮はメディアを通じてアメリカ軍の行動を揶揄し、またもやミサイル発射実験で応えます。11月29日、アメリカ全土を射程範囲とする「火星15」を発射したのです。

平昌五輪がもたらした南北融和から 米朝首脳会談へ

 慣例と化していた国連の経済制裁も、この時ばかりは北朝鮮経済へとどめを刺す規模の規制を策定します。北朝鮮で加工された食品、機械全般の輸入禁止に加え、水爆実験の温床となっている出稼ぎ労働者の本国送還など。市井の人々の生活を脅かしかねない措置を執ったのです。一方、隣の韓国では2018年2月に開催される平昌オリンピック開催への準備が進められていました。国が成り立たないほどの経済制裁を打開するには、南北融和を図るほかない。2018年の新年の辞で金正恩は、迫る平昌オリンピックへの参加を発表したのです。同時に水爆実験の成功などを誇張し、アメリカに対しては核戦争をする準備があるとも口にしました。

 すると間もなく、韓国のオリンピック関係者は協議の末、北朝鮮との合同チームを結成すると発表。開催1ヶ月前の急な決定に、韓国国民や選手から反対の声が挙がります。加えて、4月には平壌で韓国芸術団による公演が開催されました。国の機能が麻痺する程の経済制裁を受けている状況下、北朝鮮は融和策へと舵を切ったです。こうした交流事業の活発化によって南北融和ムードは一気に高まり、4月27日には南北首脳会談が実現しました。金正恩は会談で米朝首脳会談についても波及し、アメリカ側も準備に入ります。が、5月の米韓合同軍事演習を北朝鮮が強く非難すると、トランプ大統領は会談中止を表明。慌てた北朝鮮は外交官の金桂冠(キム・ゲグァン)を急ぎアメリカへ派遣すると、トランプは手のひら返しで会談実施へ動くと表明したのです。

 2018年に入り、米朝関係は目まぐるしく変化していきました。特に5月、トランプ大統領が突然の会談中止を表明したことに、北朝鮮側は驚いたとも報じられています。融和ムードの勢いで、経済制裁の縮小を狙いたい。北朝鮮の急激な歩み寄りは自国の財政を改善するためにも、選択せざるを得ないカードだと言えるのです。

水爆やミサイル技術の放棄は現実的ではない

 ソ連崩壊による反動から核ミサイル開発を始め、水爆や大陸間弾道ミサイルを保持するまでになった北朝鮮。ですが、米朝の急激な距離の縮まりは「核の遺産」を放棄することと同じ意味を指します。北朝鮮は水爆実験をはじめ、核実験の拠点として機能していた豊渓里核実験場の放棄を宣言。5月24日には海外メディアを前にして、施設の爆破を実行しました。ですが、豊渓里核実験場が度重なる水爆実験の影響で使えなくなったとの見方も広まっています。また、金正恩体制が続く限り、核兵器放棄はあり得ないと。北朝鮮の元駐英大使で、脱北者の太永浩(テ・ヨンホ)も各メディアで証言しています。アメリカや韓国から資金を早急に得たい北朝鮮にとって、米朝会談は国難を切り開く賭けでもあるのです。