韓国のコンビニ店主が店舗運営に苦しんでいる?

 文在寅政権の賃上げ政策により、韓国のコンビニ業界が悲鳴を上げています。財閥幹部が相次いで弾劾されたことで、韓国経済は冷え込み。個人消費によって支えられるコンビニなどの小売業は、売上を落としています。さらに、政権交代によって人件費が急激に高騰。以前からの厳しい労働条件と相まって、支障が目に見えて顕わとなる店舗が増えています。

急増する韓国のコンビニ数

 コンビニが初めて韓国に誕生したのは1981年のこと。時流に合わず間もなく閉店しますが、ソウルオリンピックをキッカケにして。1989年に再びセブンイレブンが開店します。翌年1990年には、サムスン財閥とつながり深い普光グループ(現:BGFリテール)、LG財閥傘下のLG流通(現:GSリテール)が相次いでコンビニ事業へ進出。普光グループは日本のファミリーマート、LG流通は自社ブランドLG25(現:GS25)を韓国で展開しました。

 「いつでも韓国は経済破綻の危機? ~財閥形成からヘル朝鮮まで~」でも記述した様に。社会風潮もコンビニ拡大を後押しします。90年代後半のアジア通貨危機を乗り越えて。韓国は非正規雇用で働く労働者が過半数を占める時代に突入しました。そのため、経済成長によって所得水準が上昇しても、結婚などに踏み切れない。相対して低収入で生活する単身若者世帯が急増したのです。裏を返せば、コンビニのメインターゲットとしやすい。小人数世帯が増えたため、コンビニ店舗数も急速に増加します。

 10年代に入ると、新規出店のペースは日本やアメリカを超える勢いで進み。2018年5月には、約40,000店ものコンビニが韓国全土で看板を掲げる。コンビニ大国と言っても差し支えない国家となりました。しかし、総人口5,100万人前後の韓国では、少ない顧客を奪い合う競争も熾烈さを増しています。1店舗あたりの平均顧客数でも、韓国が約1,300人に対し、日本と台湾は2,200人ほど、中国は3,000人前後と。数字の上でも過当競争が顕わになっており、店員の採用にも影響を与えています。さらに、文在寅政権が推し進めている所得向上方針によって。韓国のコンビニ店主たちは、苦しい立場に立たされています。

店舗運営の危機に喘ぐコンビニ店主

 単身世帯の増加で出店数が急増したものの。国の人口比に合わない大規模な店舗網が築かれ、新規出店の頭打ち感が漂い始めている韓国のコンビニ業界。日本と同様に、店舗運営はフランチャイズ契約した小規模事業者が担っている場合が多く。過当競争によって、閉店に追い込まれる店主も少なくありません。加えて、文在寅大統領が旗振り役となって推し進めている。最低賃金ラインの上昇により、コンビニ各店には様々な余波が襲い掛かって来ています。

人件費の高騰

 目下最大の問題は人件費の上昇です。2017年に時給6470ウォンだった最低賃金が、2018年には時給7530ウォンに跳ね上がり、コンビニ店主の間では動揺が走りました。人件費高騰は、かねてから問題視されていた人材不足と併せて。店舗営業に直接、利用者の目に見える形で現れはじめています。

 「崔順実ゲートによる財閥弾劾によって停滞する韓国経済」で取り上げた。蒸し暑い夏場でも、クーラーを付けずに営業するコンビニだけでなく。人手不足と規制緩和が相まって、深夜営業を取りやめるコンビニ。日中1人しかおらず、店員が用事で外出する時間帯は施錠され、店に入れないコンビニなど。急激な賃上げ策は、サービス低下を呼び込む主要因となっています。

 さらに、就職難に苦しむ若者が生活の糧として、コンビニバイトで食つないでいるケースは数多く。人手不足ながらもクビを宣告されかねない労働条件で働く若年層の心中は、戦々恐々としているのです。

過剰な出店競争

 人件費の値上げ問題だけでなく、危惧されていたコンビニの過当出店問題も再び浮き彫りとなっています。そもそも、韓国は人口比に対してコンビニの店舗数が多すぎるのです。これは90年代後半、韓国ロッテ系の韓国セブンイレブンが競合企業の買収に乗り出した動きに触発された末。歪んだ出店競争が、業界内で繰り広げられてきたのです。

 10年代初頭には、同じエリア内に、同じブランドのコンビニが複数、軒を連ねるほど競争が過熱したため。韓国政府は2012年、業界上位5社に対して徒歩250メートル以内に複数の店舗設置を禁止しました。ですが韓国公正取引委員会は、都市圏におけるコンビニ需要の増加が見込まれること。コンビニ本社の新規出店を抑制する改正法制定を建前に。わずか2年足らずで規制を廃止しました。

 改正法が施行されてから、コンビニの新規開店数は抑えられているものの。フランチャイズ店舗における過当競争の改善策になっておらず。給料水準が2015年平均で月212万ウォンと、低いことも合わさって。店舗運営に苦悩する店主たちは、途方に暮れているのです。

リタイア後の収入源として

 賃上げだけでなく、過当な出店競争によって。店主も、店員も、厳しい条件で働いているにも関わらず。韓国国内のコンビニは、なぜ増加し続けているのでしょうか。理由の1つに挙げられるのが、定年退職した元サラリーマンにとって比較的手を付けやすい。老後の収入源として、コンビニ経営に注目が集まっているためです。

 朝鮮戦争以後に生まれたベビーブーマー世代は、公的年金を積み立てていない人だけでなく。企業年金も、度重なる経済不況で早期退職を促され、満額支給を期待できない人が大勢います。生活基盤を維持するため。自営業者へ転身せざるを得ない定年退職者が、他国民が考える以上に多くいるのです。これに、コンビニ本社が抱く事業拡大への野心が混ざり合い。定年退職したコンビニ店主たちは、過剰な出店競争を加熱させる一翼を担ってきたのです。

 退職金に余裕がある内に、何らかの収入対策を講じねばならない。自営業という賭けに出るベビーブーマー世代の姿は、コンビニ業界の歪さ。もとい、脆弱な韓国の財政基盤が垣間見える。不健全な経済情勢が続いているとも言えるでしょう。

2大コンビニの差別化

 年老いたコンビニ店主の不安を他所に、コンビニ本社では新たな競合相手。ネットショップによって、コンビニのメインターゲットである少人数世帯の顧客が奪われている現状に。危機感を持っており、韓国の2大コンビニチェーンは日本と同じく。特色ある新規店舗の開店、商品の販売などで攻勢に打って出ています。他方、急激な店舗拡大の歪みで発生した。刑事事件に向き合おうとしない姿勢は、国民から大きく非難されています。

CU

 差別化戦略に最も力を注いでいるのが、韓国最大のコンビニチェーン。CUを展開するBGFリテールです。元々ファミリーマートのライセンス契約を結んでいましたが、2012年に契約を解除。独自ブランドを旗揚げ、より韓国人のニーズに合った。「21世紀韓国型コンビニエンスストア」を標語に、独自の店舗開発に力を注いでいます。

 ミニストップの様なカフェテリア型店舗の設置を積極的に行うだけでなく。貸会議室を格安で借りられる店舗。高速バス客や、外国人観光客向けに、レストスペースを充実させている店舗。カラオケボックスと併設して、カラオケを歌う際に必要な物品を揃えている店舗など。日本のコンビニ各社よりも先進的な施設を備える店舗を続々と開店させています。

 一方、BGFリテールの無責任な事件対応を非難する声は後を絶ちません。2016年にCU店員が泥酔客と口論となり刺殺された。経産CUコンビニ事件では、個人店主が責任を持つ一件だとして。BGFリテールは、被害者遺族との面会を拒否しています。さらに、2013年には、本社命令で閉店を要求されたことに自殺抗議したCU店主に対して。BGFリテールは持病による死亡だったと公式発表するなど。責任を負う素振りを見せないBGFリテールの対応に、コンビニ店主も、国民も不信感を募らせています。

GS25

 日本のファミリーマートから得たノウハウを生かし、韓国コンビニ業界に君臨しているCUですが。純韓国資本で業界2位の地位を築いたのが、旧LG傘下だったGSリテールです。韓国全土で使える交通系ICカード「T-money」による支払いが可能な点など。韓国企業によって運営されている強みを活かしたコンビニ、GS25を展開してきました。

 特に、若い女性をターゲットとした商品開発が上手く。これまでにミニオンズ、スヌーピー、リラックマといった。海外発のキャラクターを使った商品展開を積極的に行っています。コラボ商品以外でも、自社で開発している商品は丸みを帯びた独特の形状をしているものが多く。カニ味噌スープなど、尖った商品で顧客の心を掴んで流行を生み出すなど。総じて、企画力のある商品が店頭に並ぶコンビニです。そのため、韓国旅行土産として、GS25の商品を持ち帰る観光客は少なくありません。

 ただし、不祥事についてはCUと比較して少ないものの。店舗運営に首が回らなくなって、店主が自殺した事件をキッカケに。訴訟沙汰になったことも過去にありました。また、LG財閥再編の煽りで、「LG25」から「GS25」へ。ブランド名を変更した際も、被害を被ったとして店主が裁判を起こし、勝訴判決を勝ち取っています。コンビニ店主が立たされている環境の厳しさは、どの経営母体でも大差はないという現れでしょう。

コンビニ本社は店主を気遣えていない

 韓国・統計庁によると、韓国の単身世帯比率は2025年には31.1%にも達すると予測されています。需要の伸びが期待されるコンビニ業界だけあって。個人店主が切り盛りする、店舗の労働環境改善は急務です。また、弱い立場である老年店主に対する支援体制を充実させなければ、今後も刑事問題は多発するでしょう。文在寅政権としても、賃上げ一辺倒ではなく。閉店に追い込まれた店舗で働いていた人々に対し、雇用関連の救済措置を考えるべきです。店舗数が飽和状態となっている事実からも、コンビニ各社も新規出店は自重していかなくてはなりません。

 一方、韓国の大手コンビニ2社の戦略は、ネットでは経験できない実体験を提供する場所として。コンビニ店舗をデザインする考えがはまり、今後の展開も期待できます。問題は顧客だけでなく、店主側も楽しめる場として、コンビニ店舗をどう変化させていくか。決定権を持つ政府や、コンビニ本社の策定方針によって。コンビニ店舗にける課題解決は左右されるでしょう。