トルコ通貨下落に政策金利45%で備えるアルゼンチン

 アメリカとトルコの対立で誘発された通貨トルコ・リラ下落の煽りを受け、アルゼンチン・ペソの下落が止まりません。懸念されるインフレを防ぐため政策金利を40%にまで上昇させていたアルゼンチンですが、2018年8月13日にアルゼンチン中央銀行は利率を45%に設定して、USドルの通常売却を停止する方針を示しました。

インフレの抑制に苦慮してきたアルゼンチン経済

 過去を振り返ってもアルゼンチン経済は常に混乱しています。1888年になるまで通貨統一が実現せず、20世紀初頭には世界第4位の経済大国となるものの世界恐慌のダメージで通貨は下落。第二次大戦の特需で莫大な外貨を稼いだにも関わらず、戦後の過度なインフラ投資や軍事政権による工業化失敗によって、通貨のハイパーインフレに歯止めが効かなくなりました。建国から90年代前半までに高騰した通貨の桁数を減らすデノミを4度実施しても、他国からの借入期限までに返済が間に合わない債務不履行を通算5度も決行してきました。

 軍事政権から文民政権に切り替わった今日でも、水道事業や年金制度の民営化が悪手となっただけでなく、隣国ブラジルの経済危機と連動して大不況に陥ってアルゼンチン中央銀行は2001年に6度目の債務不履行を実施しました。この債務不履行で富裕層の特権廃止や国債を循環して入れ替える債務再編が進み、リーマンショックのダメージを軽減して経済の安定化に成功したかに見えましたが、債務再編に異議を申し立てるアメリカ人債権者の依頼から投資ファンドが債務取立ての裁判を起こし、アルゼンチン政府は敗訴しました。事態を重く受け止めた中央銀行は2014年に意図的に7度目の債務不履行へ踏み切り、和解を済ませて2016年に国際市場へ復帰して現在に至ります。

 しかし、2015年に成立したマクリ政権の財政引き締め策が国民から支持されず、後述する2018年からのUSドル高の進行で政策金利を40%まで上昇させた先、国際通貨基金(IMF)へ緊急融資を依頼せざるを得ない事態に置かれました。そこにトルコ・リラの通貨下落が追い打ちをかけており、アルゼンチン経済の勢いは減速しているのです。

トルコ情勢の不安が新興各国へ波及

 歴史上幾度となくデノミや債務不履行を行い、21世紀に入ってもアルゼンチンは通貨価値の下落で信用を落としてきましたが、2016年に国際市場取引へ復帰してからアルゼンチンは成長する新興国として、トルコと共に人気ある投資先となりつつありました。しかし、トルコの軍事クーデターと絡んでアメリカとトルコの関係が悪化すると、通貨の下落を不安視する見方が広まりトルコ・リラの大幅な下落を誘発。市場の混乱から、同じ新興国であるアルゼンチン国債に対する信頼も揺らいだのです。

 「サッカー選手エジルの代表引退から考えるドイツのトルコ移民」で少し触れた様にトルコは21世紀に入り、市場へ変動相場制を導入して通貨下落を招いてインフレを進行させました。公正発展党(AKP)が与党となってからデはノミが決行されて通貨の下落に歯止めがかかり、経済成長率を年平均4.9%(2002年~2013年)に維持する高成長率を実現してきました。ですが、シリア内戦の泥沼化によって次第にトルコ・リラの流通は滞りを見せはじめ、じわじわと通貨下落が進行していきました。さらに、経済再建という大義を実現したレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領が政権の独裁化を進めると、欧米諸国との外交関係は冷え込みトルコ・リラの通貨価値下落に拍車をかけました。

 独裁化へ突き進む政権に疑念を懐いた軍部は2016年7月にクーデターを実施するもあえなく鎮圧され、クーデターに関わった多数の軍人や行政官が懲戒解雇されました。この時にクーデターを手助けしたとしてアメリカ人牧師のアンドリュー・ブランソンがトルコ当局に逮捕、拘束されたのです。この処遇に不満を漏らしたのが、中間選挙でブランソン牧師が所属するキリスト教福音派の票を固めたいアメリカのトランプ大統領で、Twitter上に対トルコ向けの大規模制裁をチラつかせるとトランプ大統領は間もなくトルコからの輸入制限を設ける貿易戦争を仕掛けました。

 結果、トルコ経済の不安感が煽られ、トルコ・リラの通貨レートは急速に下落。新興国通貨でも信用が薄く、リスク回避を目的に売られやすいアルゼンチン・ペソは早々に大打撃を受けることになりました。トランプ政権の機嫌を損ねる事態によって、トルコだけでなく新興国全体に悪影響が広がっているのです。

USドル上昇でアルゼンチン通貨が下落

 トルコ経済が減速に追い打ちをかけたトランプ政権により世界経済は乱れ始め、新興国債権を売却して安全な日本円やスイス・フランを購入する動きが加速しました。また、ロシアゲート事件の追及で2018年初頭にUSドルの下落が進みます。結果、多くの海外通貨が流入していた新興諸国は投資された海外通貨を手放す、もしくはIMFからの融資を受けなければ国家財政を回せない、二択を迫られたのです。

 特に国際市場に復帰したばかりでUSドルによる長期の借入締結に躍起となっていたアルゼンチンにとって、2018年上半期のUSドル相場変動は酷だったと言わざるを得ません。マクリ政権樹立後、1USドル=10ペソ後半代で取引されていたアルゼンチン・ペソですが、アメリカでロシアゲート事件やイラク問題が一段落するとUSドルの通貨価値が上昇に転じ、アルゼンチン・ペソは2018年初頭から5月までに約2割も下落。支払う必要のある利子が借入時よりも膨らむ状況に立たされたのです。これ以上の返済金の増額を防ぐため、マクリ政権は通常ではあり得ない政策金利を40%に設定するだけでなく、IMFから500億USドルもの融資を受ける方針を固めます。

 当初、アルゼンチン政府がIMFから支援を打診していた金額は300億USドルでしたが、度重なる通貨価値の下落防止策として中央銀行が貯蓄していた海外通貨を国際市場へ注入。世論の反発を押し切り、IMFから多額の緊急融資を受け入れることとなりました。しかし、巨大な新興市場であるトルコがアメリカとの貿易戦争へ突入したことで、当初の財政再建策は見直しを迫られた末。アルゼンチン政府は政策金利45%に変更するという異次元の高金利を打ち立てる緊急事態に発展したのです。また、アルゼンチン財務省は海外通貨の流動でアルゼンチン・ペソの売却や下落が進みかねないため、中央銀行にUSドルの通常売却を停止するよう通知を出して財政再建への厳しい姿勢を明示しました。

 マクリ大統領は就任直後、国内財政を緊縮して海外からの投資を促す。言わば、外貨に依存した自由経済によってアルゼンチンを成長させようと目論んでいました。ですが、急速に進んだUSドル高、貿易戦争によるトルコ・リラ下落など。想定外の事態が立て続けに発生して海外からの融資は激減。自国財政の健全化を自国通貨の下落に苦心しながら進めて行く二重苦を抱えて、アルゼンチンは国家財政策の転換を迫られているのです。

債務不履行と向き合う現実

 トルコからの通貨危機に恐れを抱いている国々はアルゼンチンだけではありません。今後、海外からの外貨流入が鍵となる新興国にとってトランプ大統領の自己都合とも揶揄できる貿易戦争はどの新興国も望んでいません。新興各国の通貨は下落傾向にあり、貧弱な財政基盤の更なる弱体化を促しているのです。幾度となく債務不履行を繰り返してきたアルゼンチンにとってその打撃は大きく、現実味を帯びてきた8度目の債務不履行を回避せんとマクリ政権も必死なのです。

 しかし、アメリカとトルコ対立が悪化している現状からもすぐに新興国経済が好転する奇跡など期待できません。慢性的な赤字体質を抱えるアルゼンチン政府は現実を直視しつつ、他力本願な姿勢を嫌でも持ちながら新興国と先進国の関係改善を狙い図っていかねば、自国の財政再建は望めないのです。