韓国人学生が日本企業へ就職する理由

 日本企業が人材不足の解消策として、韓国で新卒採用の説明会を開催する機会が増えています。現地の韓国人学生も、積み重ねた実績を重要視せず。企業文化への適性を鑑みて選考する日本企業に魅力を感じているため。2017年度には、日系企業に新卒入社する韓国人が初めて2万人を突破するなど。優良な就職先として注目されつつあります。

振るわない韓国の雇用情勢

 「いつでも韓国は経済破綻の危機 ~財閥形成からヘル朝鮮まで~」を一読すると、韓国の雇用情勢がアジア通貨危機以来。不安定な非正規雇用が急増し、若者が就職難に苦悩している実情を理解できると思います。韓国政府も失業対策を実施してこなかった訳ではありませんが、必要な職業訓練を民間ビジネスに頼るところが強く。おまけに、中小企業の低い給料水準は一向に変化しないため。韓国の若者は安定した収入が見込める大企業に就職しようと。新卒生同士の競争が激化し、長く失業状態に陥る若者が急増しました。

 就職競争のジレンマを解決しようと、文在寅(ムン・ジェイン)大統領が提案した経済政策。Jノミクスも目論見通りに機能していません。「Jノミクスに暗雲立ち込める韓国経済」で触れましたが、長い就職市場の混迷を打破するため。文在寅政権は公官庁81万人、民間50万人もの雇用を生み出すと大々的に打ち出していますが。国家財政をひっ迫しかねない雇用創出計画に議論が紛糾しただけでなく。前任の朴槿恵(パク・クネ)時代よりも若者の雇用情勢が悪化している事実が浮き彫りとなったため。若者たちが抱いた文在寅政権への期待は冷え込みつつあります。

 いつまでも就職環境の改善が見られない様相に。韓国の若者達は、満足な就職が出来ない不安定な国内情勢を「ヘル朝鮮」、あらゆる希望を捨てて生きていく自分たちを「七放世代」などと呼称。ネット上で共有されたスラングは、広く韓国社会へ定着しました。対して、世界経済の回復基調と合わせ。日本企業が海外展開を念頭に、外国籍人材を積極的に採用しようと奮闘しているため。海を渡り、日本での就職を念頭に動く韓国人学生が目立ちはじめているのです。

旨味が多い日本企業への就職

 「ヘル朝鮮」と意味深な言葉で表される就職市場での競争を嫌い。日本企業へ就職する韓国人学生は、どのような腹積もりを抱えているのでしょう。自らが積んできた実績をいかんなく発揮できる場所を探し、日本企業の門戸を叩く学生もいるでしょうが。全ての韓国人学生が向上心を持ち、日本企業へ就職しようと考えている訳ではなさそうです。

研鑽してきたスペックが重要視されない

 韓国人学生が日本企業を目指す最大の理由は、韓国企業が重要視する「スペック」が採用試験で重荷にならない点です。韓国然り、欧米企業は基本。新卒採用時に、学校での成績、資格、英語運用能力、社会貢献活動への参加頻度など。学生時代の経験が採用基準に大きく影響します。特に、韓国経済が外貨収入に依存する構造で循環しているため。韓国人学生の英語運用能力は総じて高く。TOIECスコアで高得点を修めても、就職活動での差別化につながりません。

 しかし日本企業は、自社の企業文化と受験者が適合するかが主な採用基準となるため。極論、受験者と企業文化の馬さえ合えば、比較的容易に就職できるのです。さらに就職してからも、仕事に必要な知識や技術を持たない新入社員の教育を体系的に実施するため。固有のスペックを築き上げなくとも、専門性の高い企業へ就職する事例も珍しくありません。つまり、希望する職種に必要なスペックを積んできた韓国人学生なら。日本語運用能力さえ身に着ければ、日本企業への就職は難しくはなく。入社時より、新卒のホープとして活躍することも期待されているのです。

韓国よりも高い給料水準

 先の項目でも記述した通り、韓国では大企業と中小企業で収入格差の隔たりが大きく。2017年度の新卒社員で初任給が150万ウォン(約15万円)未満だった比率は、全体の54.3%に及び。物価や学歴の違いはあれど、給料水準が低い現状が分かります。高い学費を払いながらも、夢や希望を捨ててまで中小企業へ就職していく大卒生の存在を考えると。健全な状態とは言えません。

 他方、韓国の大企業の初任給は30万前後と高額ですが。昇給速度は遅く。生涯収入を考えれば、大卒初任給がおよそ20万円前後に抑えられているものの。日本で就職した方が長期的に多額の収入を得ることができます。また、上昇率の低い給料体系は子育て世代、養育費が必要な管理職の意欲にも響き。韓国企業の生産効率に悪影響を与えているとの声も挙がっています。将来のライフプランを見越して、日本企業に就職後。待遇の良い欧米企業への転職機会を伺う韓国人学生も少なくないでしょう。

英語を必要とする産業の人材不足

 国際取引により世界経済が回っている今日。英語運用能力は企業間交渉において、無くてはならないスキルとして挙げられます。この点、英語を満足に話せる日本人学生の数は少ないため。日本企業が海外駐在員などの確保を狙い。英語運用能力の高い韓国人学生に目を付け、採用する事例は増加傾向にあります。

 特に韓国はアジア通貨危機後、IT産業の人材育成に国を挙げて取り組んできたため。SE(システム・エンジニア)を目指して情報学を専攻する韓国人学生は多く。急激なIT産業の発展に人材供給が追い付いてない日本企業にとっては。日本語が話せ、プログラミングで必要な英語も覚えている。韓国人SEに一目置いており、採用に乗り出す日本企業は数知れません。さらに韓国内でも、日本のIT企業就職を念頭に置いた。人材育成塾は数多あり、情報学のスペックを極める環境が整っています。私塾で知識を身に付けた韓国人学生にとって、日本のIT企業は安定した職を手に入れる点も含み。悪くない就職先として、不動の人気を得ているのです。

韓国経済界の泣き寝入り

 学生のスペックが就職へ物言う韓国企業とは違い。受験者の潜在能力を重んじ、採用の合否を判定する日本企業に魅力を感じる韓国人学生は多く。各企業間で給料水準にムラが無いこと。英語を必要とする産業の人材不足が深刻化している点など。厳しい受験競争を潜り抜け、並みの日本人学生よりも研鑽を積んだ韓国人学生にとって。日本企業への就職は、韓国企業に就職するより賢明な選択だと考えている節があるのです。

 ただし、韓国人学生が日本企業へ就職する。一連の流れを促しているのは、韓国経済界を取りまとめる。全国経済人連合会(通称:全経連 / 現:韓国企業連合会)に他なりません。旧全経連は、国内の就職難を組織内で解決できないため。日本の経済団体連合会(通称:経団連)に協力を打診し、路頭に迷う韓国人学生の採用枠を与えてもらえないかと懇願したのです。これに経団連は、日本人採用だけでは間に合わない。IT産業や海外駐在員など、相応の知識量が必要な高度人材を日系企業へ供給できると踏み。旧全経連の申し出を受け、韓国人学生向けに。日本企業への就職あっせんを実施することになったのです。

 その後すぐ、「崔順実ゲートによる財閥弾劾によって停滞する韓国経済」で挙げた様に。韓国の名だたる企業幹部が弾劾され、旧全経連は韓国企業連合会に再編されたものの。日本企業を対象とした。韓国人学生向けの就職フェアは、ソウルを中心に回数が増加しつつあります。日韓双方の経済界は結託し、優良な人材となり得る韓国人学生へ。努力に見合うだけの就職先で大成することを願っているのです。

韓国人学生の日本就職で懸念されるリスク

 未来ある七放世代の希望を見出すため。韓国経済界が選んだ道は、就職市場が良好な日本に援助を願い出る。苦肉の選択でした。そもそも、旧全経連会員の大半が財閥大企業のため。就職問題の根源ともいえる。中小企業の待遇改善に、目を閉じていると指摘されても否定できません。また、多数の韓国人学生が日本などの外資企業へ就職させる状況が続けば。韓国国内の地場産業の衰退は一層進み。国を離れた韓国人学生達が、韓国企業に戻らなくなる風潮も生まれるかもしれません。

 短期的に見ると、応急策として機能する就職仲介になりますが。若者の海外流出が長期化すれば、韓国経済に壊滅的な打撃を与えかねません。若者の就職難によって形成された。韓国社会の新たな出稼ぎ労働の形は、国内経済を着実に弱体化させる危険性をはらんでいるのです。