最悪の治安水準で戦争並みの死者を出す南アフリカ

 南アフリカで2017年4月から2018年3月までに発生した。国内犯罪統計を発表され、ベキ・ツェレ警察大臣が犯罪抑止に苦慮している現状を陳謝しました。犯罪上昇率は6.9%となり、アパルトヘイト(人種隔離政策)撤廃後。最悪の治安水準となりました。殺人犠牲者も2万人を超え、戦争期間中と変わらない死者の数に。政府は困惑しています。

改善どころか悪化する雇用と格差

 以前から南アフリカは、新興国の中でも治安レベルが最悪と揶揄されてきました。総人口の1割ほどしか占めない白人支配階級を頂点とする。経済格差の激しい人種隔離社会は、アパルトヘイトの廃止で改革が進んでいるものの。人口の8割近くを占める黒人は、依然として低水準の教育しか受けられず。単純労働者として働かざるを得ない、社会構造に大きな変化は見られません。

 若者の失業率を見ても、芳しくない雇用情勢が浮き彫りとなっています。国連直属の国際労働機関(ILO)が集計したデータを見ると、2010年の南アフリカW杯が終了してから。青年失業率は50%を下回ることはなく。一度は回復の兆しが見えたものの。2016年に発生したトウモロコシの不作によって、南アフリカ中央銀行が大きく利上げに踏み切ったため。青年失業率も連動して下がり、若年層の雇用環境は過去最悪になりつつあります。また、現地で調査された人種ごとの総失業率でも、白人が8.3%に対して、黒人は39%と。黒人の若者が経済的に厳しい立場に置かれている現状が分かります。

 この根深い雇用不安を助長したのが。かつてのアパルトヘイトによって、白人と黒人の居住地域を棲み分けした自治区システム。バントゥースタンによって生まれた地域格差です。広大な土地を少人数で治めた白人層は、鉱山や農園の経営に乗り出すなど。実業家として富を蓄えましたが。強制移住で土地や資産を白人に奪われ、狭い地域での生活を余儀なくされた黒人達は貧困へ陥ったため。満足な教育を受けることが難しくなりました。国内の転居が自由となった今日でも、かけ離れた生活水準の差は埋めがたく。貧困地域の黒人が職を求めて、都市部へ向かっても就職できない。アパルトヘイトを発端とする悪循環が、戦争期間に匹敵する殺人死者数を生み出す根源となっているのです。

戦争規模の犠牲者が生まれる原因

 居住地域を明確に分けたバントゥースタンによって生まれた歪みが、21世紀に入っても払拭できず。大勢の黒人は貧困に喘ぎ、教育も受けられず、都市部で低賃金労働者として働く。アパルトヘイトの残り香が色濃く残っている実状は、南アフリカ政府を悩ませる。大きな課題となっています。これを土地問題と移民流入、2つの側面から深掘りしてくと。戦争規模の死者数が毎年発生する要因がよりつまびらかとなります。

白人層が持つ土地問題

 アパルトヘイト政策が90年代に撤回され、報復を恐れた白人層はオーストラリアなどへ転居しましたが。依然、地主として農園を経営する白人は少なくありません。また、低賃金労働者として黒人が働く構図も変わっていないため。白人へ復讐心を持つ黒人が農園内で殺人に手を染める事件は後を絶ちません。

 特に南アフリカW杯が終わった2010年以降、両人種間の応酬は過熱しました。冒頭で挙げた国内犯罪統計でも、殺人発生率は6年連続で上昇を続け。会見で毎回の様に、治安が最悪の状態だと南アフリカ警察当局は発表を繰り返しているのです。これと連動して、白人が経営する農園でも殺人事件が多発しています。2017年には農園のヒマワリを盗みに入った少年が白人農園主に見つかり、棺に入れられ恫喝された挙句。走行中のトラックから放り出され殺される事件が注目され、人種間対立は大きく煽られました

 心理的な戦争が誘発された影響は、白人の権利保護団体を突き動かす動機にもなります。2017年秋にはオランダ人にルーツを持つ。アフリカーナーのロビー団体が白人農業従事者への虐殺を非難するデモを実施。健全なプラント運営を望む声が、南アフリカ全土で広まったものの。白人農園主たちが政府に対して、不明瞭な黒人への土地分割政策に反対を示す機会ともなったため。黒人層の反感はより一層増し、人種間の心理戦争は悪化の一途をたどっています。

移民の都市部流入

 土地収容に絡んだ農園の治安問題は最悪、地権を巡る戦争状態へ突入しかねないリスクを抱えていますが。同様に国内の治安を不安定にしているのが、黒人達が職を求め都市部へ向かう人口流動問題です。地方の農園と比べ、ヨハネスブルクなどの首都圏は暮らしやすい環境が整っているものの。平然と殺人事件が発生している黒人居住地(タウンシップ)の存在も、最悪の治安国家という汚名を返上できない原因となっています。

 主要都市の街を見ても、アパルトヘイト時代に整備された都市環境が改善されていません。例えばヨハネスブルク内でも、白人居住区のサントン、タウンシップのホーデンを比較すると。整備された住宅が軒を連ねて、武装警備員が巡回するサントンとは違い。ホーデンはバラック小屋が密集し、衛生環境が整っていません。タウンシップの住民たちは、無許可で露天商を開いたりして収入を得ている層もいますが。闇ビジネスで生計を立てている人は多く。スラム内の縄張り争いから口論となり、殺人事件へ発展するケースは少なくありません。

 さらに21世紀に入り、ヨハネスブルクの経済発展に注目して流入する。隣国ジンバブエからの不法移民が、タウンシップに移り住みはじめ。少ない貧困層向けの雇用を奪い合う事態に発展しています。そのため、古くから暴力文化が根付いている場所も多いタウンシップでは、移民への排斥感情が高まった末。現地住民と流入者との言い争いが増加し、殺人件数が増えているのです。

頼み民間警備会社は富裕層の味方

 地方では、戦争に発展しかねない土地分割論争。都市部では、隣国からの流入する不法移民など。最悪の治安状態を生み出している要因は根深く。かつ、複雑化しているのです。南アフリカ警察当局も組織改革を進めているものの。警察官の人数に対して犯罪件数が圧倒的に多く。満足な対策を打ち出せていません。そのため南アフリカでは、武装した民間警備会社が代行して治安維持を務めている場面は珍しくなく。彼らの存在無くして、国の治安が保てないのが現実です。

 あまつさえ、南アフリカ全体の民間警備員の数は約40万人。南アフリカ警察官の人員約15万人を凌駕しています。故に、戦争などの有事に傭兵部隊となって政府が転覆されかねない。潜在的なリスクも持ち合わせているため。南アフリカ政府は、民間防衛産業規制法などで警備会社への睨みを利かせています。とは言え、警備会社も利潤を追求する民間企業のため。基本的には単価の高い。富裕層を対象とした業務ばかり引き受ける傾向が根強く。懸案とされている貧困層を対象とした治安維持は、警察組織に丸投げされています。さらに、従業員へのパワハラが問題視される警備会社も少なくないため。政府は脆弱な治安維持体制に不安を抱いているのです。

 しかしながら、治安維持体制の議論が富裕層を中心に展開されている現状は否めず。黒人貧困層は返って、最悪の治安状況を開き直って受け入れているのも現実です。戦争開戦中に匹敵する死者数を毎年出しながらも、南アフリカ社会は歪んだ最悪の治安社会を許容している。とも、捉えられるのです。

最悪の経済混乱は避けたい

 アパルトヘイトから生まれた南アフリカの格差社会は、富裕層と貧困層のライフスタイルを良くも悪くも確立させ。越えられない貧富の壁が形成された先、世界最悪とされる治安状態を固定化させたのです。治安維持の議論が貧困層に広まらない以上。戦争レベルの犠牲者を毎年のように生み出す、捻じれた社会は改善されないでしょう。多くの政治家が富裕層のご意見聞きになっている。根本的な問題も解決されなければ、貧困層が社会で這い上がる望みは見込めません。

 その上で、土地価格の変動で経済が乱れ、戦争状態に突入する。最悪のシナリオを南アフリカ政府も避けたいなら。まず、有望な黒人の若者へ土地管理の教育を施していくのが筋ではないでしょうか。その上で、貧困層の痛みを知る黒人へ土地を分割すれば。白人の土地持ちからの批判も幾分収まり、農園やタウンシップの再開発も急速に進んでいくはずです。