飼い猫禁止令に揺れるニュージーランド世論

 希少な固有生物を守るため。ニュージーランド南部のオマウイ村が、飼い猫への去勢とマイクロチップ埋め込みを義務化する。条例制定へ動き出しています。ニュージーランドでは、飼い猫が絶滅危惧種の動物を狩り殺す。本能的行動が問題視されており、今後ニュージーランド全土で猫を飼う行為自体。禁止されるのではとの反対意見もくすぶりつつあります。

絶滅危惧種を狩り殺す猫

 イギリスによるニュージーランドの植民化が加速した19世紀中ごろ。主に穀物農家を悩ませるネズミの駆除対策として、多くの猫がヨーロッパより持ち込まれました。その後、イギリス系移民が増加すると、猫の個体数は1世紀半で急増していき。2011年統計では約1,419万匹もの猫が社会に溶け込み。人間と共存する風潮が形成されてきました。また、ニュージーランドではイギリス系移民が人口の多くを占めるため。屋内でペットを押し込んで飼う行為は、虐待に等しいという考えが根強く。ヨーロッパ圏と同じく、ペット=猫を放し飼いする考えが共通認識となっています。

 ただ、ニュージーランドには独自の進化を遂げた飛べない鳥など。絶滅危惧種の指定を受けている動植物が多く。本来、生息していなかった猫をはじめとする。捕食動物の個体数が増えていくにつれ、不用意なペットの放し飼いを禁止するべきと。環境保護団体を中心に、以前から論争が沸き上がっていました。その一翼を担う、オウマイ村を統括するサウスランド地方の環境団体からの後押しにより。サウスランド地方議会にて、飼い猫の去勢やマイクロチップの埋め込みを義務化した先。将来的な飼い猫禁止を目指す法案の審議が開始されているのです。これに、地元オウマイ村だけでなく。放し飼い禁止は非道徳的だと反発する欧米の人々が、国境をまたいで議論を展開しています。

生まれながらにしてハンター

 ヨーロッパが発展する過程で、飼い猫は生活文化に深く根付き。大航海時代以降も、植民地域で猫の放し飼い習慣が定着しました。ですが、穀物を荒らすネズミ退治を目的として、猫が遠い陸地へ運ばれた事情とは裏腹に。猫が持つ狩猟本能が、現地の生態系へ与える影響は考慮されなかったため。植民先の固有生物を滅ぼした歴史を見過ごさず。貴重な生物を守らんと動く。ニュージーランドの環境保護団体が猫を含む捕食動物の飼育禁止を叫ぶのは、環境主義が定着している今日。珍しいことではありません。

 ニュージーランドの宗主国だったイギリスの猫文化。そして、過去の歴史から見る猫が植民先の生態系へ与える影響。2点を抑えると、ニュージーランドに留まらず。オセアニア各国で捕食動物の飼育禁止が議論される深意が理解できると思います。

イギリス公官庁の猫文化

イギリス外務省のネズミ捕獲長パーマストン
※Wikipediaより

 ニュージーランドの飼い猫禁止報道へ敏感に反応したのが。条例審議を早々に世界へ報じたBBC本社があるイギリスです。公官庁が集中するロンドン・ダウニング街は、古くからネズミを媒介とした疫病に悩まされたため。16世紀にはネズミ狩りの猫を飼う習慣が生まれました。1924年に首相官邸の公務員として猫1匹が雇われると。公官庁のネズミ捕り猫はメディアを通じて英国全土で親しまれ、飼い猫文化の定着に拍車をかけました。そのため、イギリスは猫を丁重に扱う文化が根付いていると言われています。

 特にイギリスのEU離脱問題が騒がれた2016年頃。深まる論争に疲れたイギリス国民は、首相官邸の猫に癒しを求め、猫ブームに火を付けました。これを察知した各公官庁は、首相官邸にしか設けられていなかった。公務員猫ポストを独自に設け、外務省や財務相で公務員猫が新たに雇われたのです。以来、首相官邸の猫ラリーと外務省の猫パーマストンが縄張り争いしているニュースや。行方不明となった財務省の猫グラッドストンを心配する報道がメディアで流されるなど。政治問題から波及した猫ブームがイギリス全土を包んでいるため。ニュージーランドの飼い猫禁止条例の審議は、遠く離れたイギリスで強く関心を持たれています。

 これには、イギリスでも街中の小鳥も狩り殺す猫の放し飼いを禁止するべきと。猫の飼い主からの声が広まっている。国内ペット事情の問題点とも関連しているため。イギリス国民としても、無関心ではいられないと考えている層が一定数いるのです。

猫によって絶滅した希少生物

猫の狩りが原因で絶滅したと見られる
スチーフンイワサザイ
※Wikipediaより

 イギリス本国ですら。猫の放し飼い禁止に賛否両論されている状況からも、猫の狩りがしつけでは矯正できない。本能的なものとして、猫の飼い主を悩ませている現状が分かります。そしてヨーロッパ人の入植史を見ても、猫の狩り行為は地域固有の小動物を絶滅へ追い込み。現地の生態系に多大な影響を与えてききました。ニュージーランドの環境保護団体が猫を含む。捕食動物の飼育禁止を訴えるのは、人為的な生態系変化の進行を防ぐためでもあるのです。

 ニュージーランドの北島と南島を隔てるマールボロ海峡に浮かぶ。スティーブンス島に生息していた固有の小鳥。スチーフンイワサザイが猫によって絶滅した事例は、ニュージーランド環境学者内では有名な話です。スティーブンス島で19世紀後半に着工された。灯台建設の際に持ち込まれた猫が野生化し、飛べない小鳥の捕食したため。地元の環境学者ウォルター・ブラーが新種を発見した時既に遅く。スチーフンイワサザイは絶滅していたと考えられているのです。今日でもスティーブンス島は世界でも類を見ない。希少生物の宝庫として、世界中の環境学者が注目している研究拠点です。そのため、スチーフンイワサザイが猫を筆頭とする。外来生物によって滅ぼされた事実は、ニュージーランドの生態系がいかに脆弱なのかを示す。代表的な例として語り継がれています。

 先史時代に人の手が付けられなかった。貴重な環境を後世に残すことは、地球の歴史を語る上で重要だと考える。ニュージーランドの環境主義者は大勢います。故に、捕食生物の放し飼い禁止へ動く。サウスランド地方議会の行動を支持する基盤も固いのです。

隣国でも猫の駆逐が進む

 イギリスで定着していた飼い猫文化がニュージーランドへ輸入された結果。稀有な固有生物が絶滅し、捕食動物の飼育禁止が騒がれる事態になったのです。これは、ニュージーランドだけの問題ではなく。イギリス庇護下にあった、オセアニア地域全体の問題として議論が紛糾しています。

 隣国オーストラリアでは、ニュージーランドよりも進んで猫への規制強化に着手しています。2015年以来、約200万匹もの野良猫を5年間で殺処分するため。毎年予算が組まれるようになってから。州政府や市町村レベルでも、去勢と個体登録を義務化する地域、夜間に猫を徘徊させる行為を禁止する地域。挙句、野良猫の頭蓋骨に懸賞金を設けて殺処分の協力を促す自治体も現れ、動物愛護団体との対立が深まっています。オーストラリア政府は公式見解として、猫に恨みはなく。残った野良猫は順次、指定の管理区域で監視する方針を打ち立てているものの。野良猫の殺害した写真や映像を愛猫家のSNSへ送り、殺害を示唆する民間グループが現れるなど。政府が意図しなかった動物虐待文化が形成されつつあります。

 勿論、飼い猫禁止に歩みを進めようとするオウマイ村の住民も、オーストラリアで起きている。一連の問題を知らない訳がありません。猫を飼っている住民の間では今後。動物虐待が激しくなるのではと危惧し、飼い猫禁止令に難色を示す人も少なくないのです。

愛猫家の意見はかき消されるのか?

 近年でも、オセアニア固有の生物が絶滅の危機に瀕しています。その反動で、オセアニア地域では環境保護団体の活動か活発化しているのは言うまでもありません。ニュージーランド政府も財務状況が安定した90年代以降。本来の生態系を維持しようと、積極的に環境政策を主導しています。しかし施策の行き着いた先、自国に根付いた猫の放し飼いを禁止する。反対意見が噴出しかねない法案が、地方議会で審議される事態に発展しているのです。

 それほど、ニュージーランドの生態系が脆弱だと暗に示している訳です。ただし、既に国の生活習慣に溶け込んだ。猫の放し飼いを禁止していく道のりは、そう容易くはないでしょう。法案では段階的に飼い猫禁止へ動いていくとされていますが。オウマイ村民然り、ニュージーランド国民の強い反発が予想されるのは必至です。