ホンジュラスからアメリカを目指す移民キャラバン

 ホンジュラスからアメリカを目指す移民キャラバンに、中間選挙を直前に控えたトランプ大統領が警戒を強めています。アメリカに出稼ぎへ出向いている両親を持つホンジュラス国民は貧困層を中心に多く、ホンジュラスの活動家や市民団体の働きかけによって行動を起こすホンジュラス人や中米諸国民が後を絶ちません。

春のホーリーウィークキャラバン

ホンジュラス(右下)からサンディエゴ(左上)は約4,500km離れている

 出稼ぎを目的とした中米移民は以前よりアメリカでは珍しくありませんでしたが、ホンジュラスからの移民が大きく促されたのは2018年3月。ホンジュラス国会の元副議長で活動家のバルトロ・フエンテス、不法移民支援団体プエブロ・シン・フロンテラスらが手を組み企画した。ホーリーウィークキャラバンと呼ばれる計画が、10月より始まった集団移民の流れを拡大した要因として深く関係しています。

 詳細は「バナナ共和国ホンジュラスの歴史」に執筆していますが、ホンジュラスでは2009年に当時の大統領マヌエル・セラヤによって発議された。大統領規定に関係する憲法改正の実施に反発した軍部のクーデターによって、国連が貧困層と位置付けする基準を下回る生活水準で暮らす国民が増加しました。それと並行して、弱体化していたギャングが息を吹き返してホンジュラスの治安も悪化していきます。当然、国民は危機感を感じ、富裕層は歴史的にも関係が強いアメリカなどへ移民としてホンジュラスを離れました。

 しかし、国民のうち6割以上を占める貧困層がアメリカへの渡航費を捻出できるわけもなく、市井の人々は日々ギャングに怯えながら、金持ちの逃避行を黙って眺めることしかできなかったのです。特に子育て世代の親が職を手に入れられず、アメリカに出稼ぎへ向かい、ホンジュラスに放置された子供がギャングとの関係を強要される。悪循環も生まれており、中米諸国では予てから社会問題とされていました。

 そこに大きく追い打ちをかけたのが、トランプ政権に変わって実行された中米諸国への支援金削減です。オバマ政権期の2016年度には約270,000千USドルもの経済支援金が中米各国に渡っていましたが、トランプ大統領が就任した2017年度には約180,000千USドルにまで抑えられ、中米各国の年間予算編成に多大な打撃を与えました。これを敏感に受け止めたのが元国会副議長だったフエンテスで、不法移民を支援するプエブロ・シン・フロンテラスなどの関係機関と連携して2018年3月25日、ホンジュラス最南端のチョルテカ県に希望者を集めて1回目の移民キャラバン実施にこぎつけました。

 若い男性や子育て世代を中心に結成された移民キャラバンは約1ヵ月後、約1,200人に膨れ上がってアメリカの国境都市サンディエゴへ向かいます。これに対してトランプ政権は、正式な手続きを踏まければアメリカへの入国を認めない方針を固め、パスポートなしで国境を越えようとする移民を逮捕する事態が散発すると、長旅で疲労が溜まっていたキャラバン内部の事情も相まって、一行はサンディエゴとメキシコ・ティフアナにまたがるフレンドシップパークにて解散。多くが最終目標としていたアメリカではなく、メキシコに在留する選択を余儀なくされました。

伝播する移民キャラバンの勢い

 アメリカ入国を目指したホンジュラス人が多数メキシコに居座ることとなり、ホーリーウィークキャラバンは米墨間の政治情勢に影響を与えます。アメリカのトランプ大統領はTwitterを介して、「キャラバンの中に中東からのテロリストが紛れ込んでいる」といった根拠のないツイートを発信、中間選挙が迫る時期に浮き出た問題として不安感を煽りました。一方でメキシコのペニャニエト大統領は、先の移民キャラバンでアメリカが国境へ州兵の動員を指示したことを非難し、協力関係を敷いている麻薬取締の捜査体制を見直すと発表。国境の壁の一件でも対立していた両国関係をさらに悪化させました。

 それを他所に、ホンジュラスを取り巻く中米諸国では貧困や暴力から逃れる方法として移民キャラバンに注目が集まることとなり、SNS上では次回開催を模索する動きが加速しました。ホーリーウィークキャラバンを主催したフエンテス、プエブロ・シン・フロンテラスなどの関係機関も前回の反省を踏まえ、ホンジュラスの中心地を起点とする移民キャラバン実施へ舵を切ります。そしてフエンテスの関係者が先導して2018年10月13日、ホンジュラス第2の都市サンペドロスーラから2度目の移民キャラバン約160人がアメリカを目指し移動を開始します。SNSから関係構築された移民キャラバンは瞬く間に500人集まり、ホンジュラスから隣国グアテマラを超える頃には2,000人規模に、メキシコ国境へ差し掛かると5,000人規模へ膨れ上がりました。

 進路に当たる関係各国も黙っていません。グアテマラ当局はホンジュラス国境に隣接するチキムーラ県を移民キャラバンが通過するタイミングで、主催者フエンテスや同行していた複数のホンジュラス人を拘束しています。メキシコ政府もトランプ政権の圧力からグアテマラ国境へ警察官を増員する、外交関係を気遣った対応を余儀なくされました。ただし、グアテマラは移民キャラバンへ参加している国民を抱えている点、メキシコは2018年7月の大統領選でペニャニエト陣営が推す候補が敗北した関係で、両国とも本音は迫りくる移民を無暗に止めることは内政上の得策とは考えていませんでした。故に、バリケードが壊されて国境検問所を悠々と行進されようと、国境の川でいかだを作って渡る移民が現れようと、警察は強く移民キャラバンの進行を止めませんでした。

 グアテマラに接するメキシコ・チアパス州では移民キャラバンを歓迎するムードさえ生まれており、メキシコ政府は移民キャラバンの北上を阻止するため、チアパス州と北に隣接するオアハカ州に留まることを条件に身分証明書を発行する計画「あなたの家」を発表。教育や医療を受ける権利を保障して、移民キャラバンの中核をなす若者や子育て世代に手を差し伸べようとしています。

トランプ大統領の怒りと焦り

 ルートに当たるグアテマラとメキシコが共に本腰を入れて移民キャラバンを阻止しない姿勢に、春の一件で腹立たせていたトランプ大統領は怒りの行動へ踏み込みます。2018年10月22日にはTwitter上で移民キャラバンの進行を阻止できなかった報復措置として、ホンジュラス、グアテマラ、エルサルバドルの3ヵ国に向けた経済支援金の停止または大幅な削減を実施すると書き残しています。さらに、アメリカ国防総省はメキシコ国境沿いに約800人の米軍を派遣し、すでに配置されている州兵約2,100人と合流後に壁の補強作業や警備に入る方針を固めました。

 ただし、移民キャラバンの存在が中間選挙における宣伝の出汁に使われている感は否めません。トランプ大統領の遊説内容からも、「民主党は移民キャラバンを歓迎している」と前置きした後に必ず「不法移民の侵入を絶対に許さない」と発言して、支持者たちを奮い立たせています。すでに民主党が連邦議会下院の議席過半数を獲得する見立てが優勢のため、反トランプ層や引退議員の多さといった懸念を抱える共和党が支持を集めるには、移民キャラバンの問題を挙げるのが最も効率の良い戦法だとトランプ大統領は判断しているのでしょう。

 通過する各国で騒ぎを起こしつつ北上する移民キャラバンに、トランプ大統領は緊急事態だと世論喚起する傍ら、政権運営を左右する一大選挙の票取り合戦における謳い文句として遊説する。都合の良い点だけ掘り出すトランプ節を引き下げ、苦戦する中間選挙を戦っているのです。

追記(2018/10/31)

 アメリカ国防総省は29日、米兵5,200人を新たにメキシコ国境へ追加派遣する方針を正式決定しました。派兵規模はイラク駐留部隊の人数に匹敵しており、新たな移民キャラバンが続々と結成されて北上する現状にトランプ大統領は頑固たる姿勢を示し、苦戦する中間選挙へのアピール材料としたい考えてる様です。

紛れもない難民と言える

 テロリスト関係者が紛れているとトランプ大統領から槍玉に挙げられている移民キャラバンですが、グランディ国連難民高等弁務官は記者会見で「より良い機会を求める人は『移民』だが、深刻な暴力から逃れようとする人は『難民』だ」と発言しています。事実、ホンジュラスなどの中米諸国では若者がギャングとの関係を強要される風潮が根付いているため、ホーリーウィークキャラバンから続く一連の移民キャラバンは、中米諸国民が置かれている貧困の現状を象徴する動きとも言い切れるのです。

 加えて、フエンテスが促した移民キャラバンの波は伝播し、元々の主催団体とは何ら関係を持たない移民キャラバンが続々と結成されています。一連の移民キャラバン参加者は7,000人を超えたとも考えられており、押し寄せる難民たちをトランプ政権が排除に取り掛かる事態は避けられそうにありません。