ドイツ州議会選挙におけるAfD躍進とメルケルの任責辞任

 環境政党の同盟90緑の党と新興極右政党ドイツのための選択肢(AfD)が州議会選挙で大きく議席を伸ばし、ドイツのメルケル首相が与党・キリスト教民主同盟(CDU)党首の座を引責辞任すると発表しました。すでに政権末期と叫ばれていたメルケル政権に対する失望感が如実に現れた一方で、極右AfDの勢いはヨーロッパ全体に懸念を広めています。

バイエルン州の危機意識

 メルケル政権の迷走ぶりは「ドイツからの難民送還を推し進めたいCSU」で触れた通り、難民政策の方針転換からもうかがい知れます。シリア危機によって押し寄せた110万人規模の難民をメルケル首相の鶴の一声で受け入れた結果、ドイツでは移民難民の絡む事件が年々増加したためCDUは急激に支持を失い、各地の州議会選挙では移民排斥を掲げるAfDに議席を奪われ続けました。

 ことCDUと連立政権を組むキリスト教社会同盟(CSU)が地盤とするバイエルン州では外国人による犯罪率増加が顕著で、CSU党首ゼーホーファーは連立政権離脱をほのめかしてまでメルケルに難民の強制送還を推し進める決断を促しています。当然ながらCDUとCSUとの関係悪化は国民からの失望を買うと同時に、明確な難民排斥を訴えるAfDへの支持を広げる要因ともなりました。他方、政権にも極右思想にも嫌気が差した人々がメルケルの考えに近い緑の党を支持する動きも加速します。こうしたCSUへの逆風はバイエルン州議会選挙の告示日になっても止まらず、選挙演説期間を経ても好転しませんでした。

 そして2018年10月14日に投票日を迎えたバイエルン州議会選挙はCSUの支持者離れを露呈させる結果となります。CSUは第1党を維持したものの比例投票率37.7%しか獲得できず、単独での政権運営が事実上不可能となりました。またCSUからの浮動票は緑の党を第2党へ躍進させ、AfDのバイエルン州議会初進出を実現させることになり、CSUの失墜を中央のメルケル政権へ突き付けました。

AfDが全州議会で議席獲得

 バイエルン州議会選挙におけるCSUの落ちぶれ、緑の党とAfDの躍進は保守王国バイエルン州の右派分裂を象徴する現象としてドイツ全土に衝撃を与えました。特に新興の極右政党AfDはバイエルン州議会選挙を終え、残り議席を獲得していない州議会は2018年10月28日に選挙が実施されるヘッセン州議会のみとなり、CDU内の危機感は一入になります。

 ヘッセン州は交通の要所フランクフルトを抱える一大地域、移民難民も職のあるルール工業地帯へ向かうルートとして通過するため、バイエルン州と同じく治安を悪化させる外国人に良い心証を持っていない市民が多く暮らしています。さらに選挙前のヘッセン州はCDUと緑の党による連立与党が政権を担っていたため、選挙演説期間中は両党の温度差が垣間見える様相となりました。一方のAfDは議席を持たないにも関わらず出前調査では手堅い支持率を叩き出し、ヘッセン州議会に議席を有していた自由民主党(FDP)や左翼党を抑える会派になるとの見方が大勢を占めます。

 結果は事前の見立て通りAfDは議会第4位の地位を獲得して全州議会に議席を確保しました。また、緑の党が比例得票率を大きく伸ばす裏で、CDUと社会民主党(SPD)は改選前より10%以上もの比例得票率を失います。特に中央政界でCDUと連立政権を組む左派政党SPDはバイエルン州議会選挙に続く大敗を喫した点からも、既存政党への失望感を露骨に示すことになりました。

メルケル首相がCDU党首辞任へ

 2度の州議会選挙における中央政権与党の大敗は緑の党とAfDを勢いづけただけでなく、メルケル政権への大きなダメージとなりました。「第四次メルケル大連立政権にドイツ国民は不安視する」の記事後半でも触れている様に、メルケル連立政権は2017年の連邦議会選挙から半年もの迷走の末に発足した時点でレームダック扱いされおり、州議会選挙を終えて社会不安を助長していた現実が改めて浮き彫りとなったのです。

 歴史的な州議会選挙敗戦の責任を追及する声が挙がるのも必然で、メルケルはヘッセン州議会選挙の翌日に次のCDU党首選挙へ出馬しない意向を発表、2018年12月までの任期をもって任責辞任する考えを示しました。加えて、ドイツ首相の座も2021年までの任期満了と共に辞任して政界から身を引く声明も同時に発表しました。2000年からCDU党首を務めてきた女帝の退任発表はドイツ政界だけでなくEU全体に衝撃を与えます。曲がりなりにも金融危機の困難にEUが堪えられたのはメルケル首相の存在が大きく、増長するAfDなどの極右政党を抑えるにはメルケル首相が必要だと考えている欧州人は少なくないのです。

 そうしたEU内の事情をくみ取り、メルケルは近くCDU党首を辞める考えを公表しながらも、ドイツ首相をすぐには辞さない考えを示したのです。ただ、州議会選挙において度重なる中央政権与党の敗戦は着実にメルケル政権の足場を崩しており、今後の政権運営をさらに混迷させるのは必至です。

ザクセン州の極右デモ

2017年連邦議会選挙における
AfD比例投票率を示す色地図
東部で最も色が濃い地域がザクセン州
※Wikipediaより

 メルケルの進退発表で連立政権の更なる弱体化は避けられませんが、中央政権与党が是が非でも極右思想を掲げるAfDの勢いを止めたいと考えている点は一致しています。いくら死に体扱いされるまで落ちぶれたメルケル政権とは言え、大量のシリア難民受け入れや金融危機への対応などの実績は評価されており、ドイツメディアもメルケルを擁護してAfDを非難する報道を連日続けています。

 対してAfD支持層は既存メディアの報道を信用せず、AfDこそ現実を直視ている政党だと考えており、各地で極右デモを暴徒化させる原因となっています。デモ参加者の中にはドイツで処罰対象となっているナチスドイツ時代の敬礼ハイルヒトラーをする人物もおり、極右思想が過去の過ちを繰り返しているとドイツメディアは総じて槍玉に挙げているのです。しかしその背景には、依然として是正されない旧東西ドイツ地域間の経済格差に対する不満を発端とする既存政党への失望感があり、旧東ドイツ地域でAfDは着実に安定した支持基盤を固めつつあります。

 特にチェコ国境に接する旧東ドイツ地域のザクセン州はAfD最大の牙城となっています。移民難民の大半はオーストリアを経由してバイエルン州に入りますが、国境地帯のザクセン州では他の州と比べて外国人犯罪率が低いにも関わらず、かねてより移民難民を排斥する動きが根強くありました。2018年8月27日には、前日に発生したイスラム圏の外国人によるドイツ人刺殺事件へ抗議する極右活動家のデモが過激化、犠牲者を弔いに来た人々の思いを踏みにじる暴動へ発展しました。これに対してAfD所属の国会議員がデモを肯定するツイートを発信するなど、反イスラム姿勢に沿ったAfDの言動を問題視する声は俄然高まったのです。

 すでにAfDはドイツ連邦議会に92議席を持つ一大政党となっており、巨大組織CDUであってもAfDの発言力を無視することはできません。ですが、鎮魂を祈るため事件現場を訪れた人々の内心を傷つける極右思想の隆盛はドイツ社会の分断を助長し、メルケル首相が推し進めてきた多様性の推進を停滞させつつあります。

「一つのヨーロッパ」は崩壊するのか?

 世界に広がる極右化の波は、多様性ある「一つのヨーロッパ」を崩しかねない事態へ発展しつつあります。極右思想を世界へ伝播させたトランプ政権を離れた、スティーブン・バノン元主席戦略官が欧州圏の極右政党を支援する財団・ムーブメントを立ち上げ、フランスの国民連合、ハンガリーのフィデス=ハンガリー市民同盟といった極右を標榜する政党の支援を表明しています。無論、AfDもムーブメントと何らかの関わりを持つ可能性は否定できず、迫る2019年5月の欧州議会選挙で極右政党が大きく議席を伸ばす見立ても広まり続けています。

 その点、バイエルン州とヘッセン州における議会選挙の結果は極右拡大の裏付けとして、これからのドイツ政治に困難を与えるでしょう。ですが同時に、多様性を重んじる緑の党がCDUやSPDに代わって台頭してきた現象も見逃してはなりません。いくらAfDが勢力を拡大しても全国民の意見を代弁することは不可能です。ドイツの民主主義を守る鍵は緑の党が握っていると言っても過言ではありません。