フランスのSNS発デモがマクロン辞任を訴える理由

 燃料税導入に反対する声を発端として、エマニュエル・マクロン大統領の辞任を求めるデモ「黄色いベスト」運動がフランス全土で拡大を続けています。日本の経団連に当たるフランス企業運動(MEDEF)を優遇するマクロン大統領の急激な税制改革策は、労働者の不満だけでなく複合した社会的要求を過激に訴える大規模デモへ発展しました。

フランス伝統産業の競争力低下

 王朝を打倒したフランス革命にはじまり、民衆によるデモはフランスを象徴する文化と言えます。過去の事例を挙げれば、ベトナム戦争の反戦を訴えた五月革命は世界中にカウンターカルチャーを根付かせました。直近の大統領選挙でも極右政党・国民戦線(現:国民連合)マリーヌ・ルペン候補の当選を防ごうと民衆がデモなどで団結した末、マクロンが大統領の座についたのです。

 一方でフランスは主要先進国でもIoT技術の導入が遅れており、フランソワ・オランド前大統領時代より差し迫った課題として政府を悩ませてきました。と言うのも、フランスは絹織物、装飾品、農産物などのブランド品を生産する職人産業を脈々と大事にしてきた国家のため、新興するIoT技術を国内全土で広めていこうとする気風が弱く、情報化社会が進展するにつれて都市部と地方との情報格差がそのまま経済格差として広がっているのです既存のモノづくりに依存する経済は国際的な企業競争力の弱体化を助長しており、フランスは伝統工芸に依存する産業構造からの変革を迫られています。

 MEDEFに加盟するフランス大手企業の停滞はマクロン大統領にとっても解決すべき急務と考えており、企業体力の回復させる政策を就任以来矢継ぎ早に進めてきました。ですが、大手企業を優遇する方針は他国よりも発言力が強い労働者や職人から批判を集め、地方在住者には欠かせない車に関わる燃料税導入が検討されると怒りが爆発したのです。

痛みを伴うマクロン改革

 マクロン大統領による財務政策に辛辣な意見が飛び交う最大の理由は、フランスを支えてきた自負の強い労働者に負担を強いる企業優遇策を連発してきたためです。加えて、エリート養成校パリ政治学院を卒業して投資銀行の副社長格まで上り詰めた経歴も相まって、マクロン大統領が本当に民衆の苦しみを理解できるのか強く疑われている面があります。

 就任間もなくマクロン大統領は身を切る改革として先進国でも歳出が多いフランス財政を締めるため、労働法を改正して企業の解雇手続きを簡易化する人件費削減策に精を出し、社会保障税を増税して不足しがちな医療費の充填に回すなど、民衆の反発を他所にMEDEFに加入する大手企業への優遇措置を決行しました。これはEU内で定められている財政の安定成長協定で、単年度における財政赤字が国内総生産(GDP)の3%以上を上回ってはいけない決まりを厳密に順守する。EUの盟主として手本を見せたいマクロン大統領の考えによるもので、政府がEUの財政基準に沿った改革を進めるほど労働者層の多い地方で暮らす人々の生活を圧迫する構図が生まれたのです。

 黄色いベスト運動によるデモ活動が活発化するキッカケとなった燃料税導入もEU内で存在感を示したい。フランス政府の意向によって導入が発表された法案ですが、マクロン大統領にすれば選挙戦の際に打ち立てていた公約を実施いているにすぎません。2017年の大統領選でマクロン陣営は環境政策において増税による化石燃料の消費を抑制して、電気自動車の普及を推進する方針を打ち出しています。2015年のパリ協定で定められたCO2排出基準の達成を念頭に置いた公約ですが、労働者層からすればお偉いさんが決めた押し付けがましい環境推進策に嫌気がさしている事実は否めません。自動車が社会に溶け込んでいるフランス国民にとって化石燃料の増税は生活に影響を与えかねない、重要な関心事として注目されてきたのです。

 こうした国民の理解が進まない実情と相反して、エドゥアール・フィリップ内閣は環境主義者のフランソア・ドルジを環境大臣に就任させると燃料税導入の議論を進め、11月に2019年度からの燃料税導入における指針を明示した結果。SNSを通じて集まった労働者たちがフランス全土で燃料税の導入廃止を訴えることになり、ひいてはマクロン大統領の辞任を要求する過激デモに発展しました。

SNSを通じた新たなデモの形

 日増しに過激化する事態の収拾を図りたいフランス政府としても、今回のデモは誰と交渉すれば事態を鎮静化できるのか見当がつかず対応に苦慮しています。SNSの呼びかけで集まった主義主張が異なるデモ参加者の代表が誰なのか判然としないため、燃料税の導入延期が発表されても一向に事態が収まらない様相を呈しているのです。

 無論デモ参加者の中核を占めているのは富裕層への優遇策を執っている政府へ不満を持つ労働者層ですが、参加者の中には過激な無政府主義者や生活が安定しないイスラム圏の移民、果ては凱旋門のマリアンヌ像を破壊する一派も現れて、一概に燃料税反対を訴えるフランス人労働者によるデモではなくなっているのです。そうした複合的な主張を1つのデモで訴える現象を引き起こしたのがSNSによる呼びかけに他ならず、数多の個人や団体が連帯してデモを実施する流れをフランス各地で生み出し、収拾がつかない状況へと誘うネットワークとして機能したのです。

 フェイクニュースにより暴動化が扇動されたとの見立ても広がっています。新規で作られたTwitterアカウントが今回のデモとは関係ない映像を掲載したツイートをして、過激なデモを助長した事実が既に判明しています。フェイクニュースアカウントによる意図的な情報かく乱がデモの暴動化を招いたのは否定できないでしょう。また、アメリカのトランプ大統領はTwitterによる発信でパリ協定によりフランスが混乱に陥っているとして、フランス国民が「『我々にトランプを』と連呼している」と事実無根の発信をしており、各国メディアがこぞってトランプ大統領の皮肉交じりの発言に反応しています。

 ネット上では情報戦争に敗北したとの声も出ており、奇しくもマクロン大統領やMEDEF加盟企業が懸念していたIoT技術対策の遅れが事態悪化を招いたとの考えも散見されます。ただ、SNSを媒介にした大規模デモはフランスの歴史上でも初めての出来事で、12月10日のマクロン大統領による声明発表からも対応に苦慮している様子がうかがえます(詳細はマクロン大統領と富裕層を敵視するフランス労働者たちにて)。一方で、今後同じくSNSを媒介にしたデモが発生するであろう新時代を踏まえれば、フランス政府の対応が国際的な事例として大いに注目されている点は抑えておくべきでしょう。

初の大規模SNSデモにフランス政府は…

 MEDEFやマクロン大統領が望んだ痛みを伴う急激な改革は多くの労働者の反感を買い、燃料税反対を訴えるSNS発のデモは次第にマクロン大統領辞任を訴える。まとまりのない暴動と化したデモへと変貌しました。さらにフランス国内における情報産業発展の遅れがフェイクニュースを拡散させる要因となり、純粋な労働者の意見を訴えるデモの本質を捻じ曲げたのです。

 大統領選でマクロン大統領と戦った極右政党・国民連合のルペン党首も、社会格差が根源となっているデモへの支持を表明しており混乱は極右勢力のプロパガンダにも利用されつつあります。さらにCNNニュースによれば12月8日にフランス全土で実施されたデモの参加者は125,000人となり、警官が報道クルーにゴム弾を放つなど連日のデモ開催によって現地は混迷を極めています。新時代のSNSデモへの対応を迫られているマクロン大統領は経済界と労働者との折り合いをつける、新たな折衷策を指針として打ち出せるのか。困難を迎えるであろう政府運営が欧州圏の安定に多大な影響を与えることは言うまでもありません。