インドネシア活火山災害の歴史

 国土が火山列島からなるインドネシアは日本と同じく災害大国として度重なる自然災害に苛まれてきました。2018年度末に噴火が発生したアグン山やクラカタウ火山も過去に大規模な噴火を繰り返している点からも窺えるように、有史以来インドネシアは常に災害と向き合ってきていますが満足な防災対策が行き届いていません。

災害国家インドネシアの厳しい防災事情

 環太平洋火山帯の真上に島々が並ぶインドネシアには129もの活火山が連なっているだけでなく、ユーラシアプレートとオーストラリアプレートのひずみによって地震が発生しやすい地形となっています。過去振り返っても、噴火・地震・津波などの現象が同時に発生する大規模災害がインドネシアで多発しています。

 一例としてスンダ海峡にあるクラカタウ火山が535年に噴火した説に着目すると、地球全体が火山灰を含む雲で覆われて世界的な作物の不作となり、ペストの流行やイスラム教の布教拡大につながりました(詳細は津波の被害続くインドネシアとクラカタウ火山の噴火史にて)。他にもインドネシアではバリ島のアグン山・スマトラ島のシナブン山・ジャワ島のケルート山など、古代より大小問わず噴火を繰り返している火山は多くあります。これら火山が21世紀に入って連動するかのように活発に噴火や地震を引き起こしているため、インドネシア政府も2004年スマトラ島沖地震をキッカケにして国家防災庁を設立させるなど国を挙げて災害対策を進めてきました。

 しかし現状、広い国土をカバーするために必要な防災予算をインドネシア政府は満足に捻出できていません。2018年9月に発生したスラウェシ島地震では津波観測システムが予算不足で機能していない事実が発覚、12月にスンダ海峡で発生した津波災害の件も踏まえて国民からはシステムの正常運用を望む声が高まっています。一方で防災システムの開発ノウハウを持ち合わせないインドネシアは外資企業に保守運用を依存せざるを得ない問題点も抱えており、大災害を教訓にして誕生した国家防災庁としては国民の声と板挟みになる心苦しい状況に陥っているのです。

 数多くの災害リスクを抱えながらも十分な防災体制が築けていない国家防災庁の現状とは裏腹に、インドネシアにおける災害は火山活動の活発化と合わせてさらに増加すると危惧されています。その根底にあるのは、過去に発生した大規模噴火の記憶がインドネシア国民の間で広く共有されていることも理由に挙げられます。

現在進行形の火山災害

 インドネシアの島々が火山で形成されている点からも噴火による自然災害は人々が生活を営む上で切り離せません。2010年代に入りクラカタウ火山・アグン山・シナブン山といった活火山が軒並み噴火しており、災害が発生するたび地域住民の生活に被害が及んでいます。

クラカタウ火山

 スンダ海峡に浮かぶクラカタウ火山はインドネシアだけでなく世界規模の災害を過去2度起こしています。冒頭でも紹介した535年頃の噴火では世界的な食糧不足を引き起こして、人類の生活文化に多大なる影響を与えました(詳細は津波の被害続くインドネシアとクラカタウ火山の噴火史にて)。それだけでなく、1883年には山肌を破壊するほどの巨大噴火を引き起こして地球の平均気温を下げるなど、クラカタウ火山は世界各地に異常気象をもたらしました。その後クラカタウ火山は海に沈みますが1920年代後半になると海中噴火を繰り返すようなり、21世紀初頭には海抜が400mを超えるアナク・クラカタウが誕生します。

 そして2018年12月、噴火活動による山体崩壊でスンダ海峡に津波が発生して400人以上の犠牲者を出して、年が明けた2019年1月3日にも噴煙が高度2,000mへ到達するほどの噴火を引き起こしています。クラカタウ火山の活動がしばらく鎮静化する様子はなく、被災した周辺住民は苦しい避難生活を余儀なくされています。

アグン山

2017年11月のアグン山噴火
※Wikipediaより

 年末時期に噴火したクラカタウ火山による津波が世界的に話題となる以前、インドネシアでは予てから活発に動いていたジャワ島のアグン山を危険視する空気が流れていました。インドネシア有数の観光地にある活火山は2017年9月頃より警戒レベルが最高位まで引き上げられ、同年11月と2018年6~7月に続けて噴火を起こして半径2km圏内が溶岩に襲われています。玄関口となる国際空港が閉鎖されたことも相まって観光客も大幅に減少しました。今は小康状態となっていますが依然としてアグン山の動きは静まっておらず地元観光業者だけでなく、観光業を産業の柱にしているインドネシア政府の不安は拭われていません。

 古くからアグン山は神が住まう場所として崇拝対象とされると同時に畏怖されてきました。1963年に発生した噴火でも1,148人が死亡する惨事となり、放出された硫黄灰が遠く離れたグリーンランドへ降り積もった記録からも、アグン山が大噴火すると世界中の大気へ影響を及ぼす可能性を秘めていることがうかがえます。故に国内最大の観光地バリへの悪影響をインドネシア国民は固唾を呑んで注目しているのです。

シナブン山

白い堆積物が目立つ2016年のシナブン山
※Wikipediaより

 クラカタウ火山とアグン山の被害が際立った2018年でしたがスマトラ島のシナブン山も2010年以来、断続して噴火活動を続けているため国家防災庁が警戒に当たっています。休止火山として長らく活動していなかったシナブン山ですが水蒸気爆発を発端とした噴火が幾度となく発生しているため、大規模噴火が発生しては地域住民の生活に支障をきたしています。さらに、入山規制の実施と解除の繰り返しはジャーナリストと同行して登山した高校生たちが死亡する事故も招いており、シナブン山に安心して足を踏み入れることができない状況が周辺の風評被害を悪化させています。

過去に大規模噴火を起こした火山

 2019年1月現在、主に警戒されているのはクラカタウ火山・アグン山・シナブン山の3つですが、インドネシアには他にも過去の大規模噴火で甚大な被害が発生している火山は幾つかあります。ただ自然の遺構として観光地と化している場所も多く、インドネシア政府としては自国の観光産業を支える資源として守りたい思いとは裏腹に、災害への警戒を続けなければいけないジレンマに常々悩まされています。

ケルート山

2014年ケルート山噴火により火山灰に覆われた
ジョグジャカルタ市内
※Wikipediaより

 近年噴火して小康状態となっている火山で、インドネシアのインフラ網に大きな打撃を与えたのはジャワ島に峰を構えるケルート山です。2014年2月に噴火した際は300km西方の大都市ジョグジャカルタへ大量の火山灰が降り注ぎ、交通・農工業・インフラなどへ多大なダメージを与えて都市機能を麻痺させました。その後、同年4月に実施されたインドネシア国会総選挙期間中には被災地で食料が配られる復興支援が実施されるなど、ケルート山から噴き出された火山灰によって多くのジャワ島民が食糧事情に苦心しており、復興費の総額はおよそ550億ルピア(当時のレートで4億8,950万円相当)に及ぶ広域災害となりました。

タンボラ山

巨大なカルデラ火山となったタンボラ山
※Wikipediaより

 最近では目立った動きを見せていないもののスンバワ島北部のサンガル半島にそびえるタンボラ山は、1883年クラカタウ火山噴火に引けを取らないほどの被害を1815年に世界各地へ与えています。山肌を削って爆破した現象は4,000m級の標高を2,851mに引き下げてカルデラ状の山と化し、半径500km圏内は3日間太陽の日差しが届かなかったと伝えられています。さらに、1810年代前半は世界各地で噴火が相次いだため大気中に大量の火山灰が噴出していたと考えられ、1816年の欧米諸国は極度の冷夏となり作物が育たず大飢饉が発生、アメリカでは豊かな土地を求めて西部開発が活発化しました。天候面でもハンガリーやイタリアで赤褐色の雪が降り、異常な降水量によりライン川がしばしば決壊して洪水が発生するなど、1963年アグン山噴火と同様に遠く離れた欧米圏で異常気象を発生させる要因を作りました。

世界的な火山集中地帯の苦心

 巨大な火山が数多く点在するインドネシアでは歴史的に見ても多くの大噴火が発生してきました。ですが津波観測システムを活用出来ていない実情からも、インドネシア政府の財力では広大な国土をカバーできるだけの防災体制を敷くのは難しく、災害復興対策も後手後手に回っている感は否めません。2010年代となり頻発する噴火の様子からも近い将来、1815年タンボラ山噴火や1883年クラカタウ火山噴火などに並ぶ世界規模の大噴火が発生してもおかしくはなく、インドネシアの災害環境はより厳しさを増しています。