火器管制レーダーを哨戒機に照射した韓国軍の言い訳

 2018年末に発生した韓国軍艦船の火器管制レーダー照射問題によって日韓関係が急激に冷え込んでいます。自衛隊哨戒機から挑発行為を受けたとする韓国国防省は8ヵ国語の意見動画を投稿して国際世論に訴えていますが、証拠が十分に提示できていない動画内容は韓国側の言い訳だと日本国内で認識が広がっています。

日本海で発生したレーダー照射

 ことの発端は2018年12月20日の能登半島沖、日本の排他的経済水域(EEZ)内で北朝鮮籍の船を救護していた韓国軍駆逐艦・広開土大王(クァンゲト・デワン)が海上自衛隊のP-1哨戒機に火器管制レーダーを照射したことです。問題発生の翌日には日本政府が「規定に則り識別確認をしたにも関わらず、火器管制レーダーの照射した行動は射撃を前提にした危険行為だ」と韓国海軍を非難しました。

 一方で韓国側は22日の会見で「捜索活動により火器管制レーダーを使用しただけで哨戒機を追跡する意図は全くなかった」としながらも、日を追うごとに見解が二転三転します。23日には「東海(日本海の韓国名)で捜索活動中にレーダー系統をフル稼働させていたところ哨戒機が近づき、識別を確認するため火器管制レーダーに取り付けられている光学カメラを使用した」と話し、24日になると「光学カメラと火器管制レーダーは同時稼働させていたが哨戒機へビーム照射しておらず、むしろ人道的な救出作戦中に駆逐艦へ接近した自衛隊哨戒機の行動は威嚇行為だ」と語気を強めます。

 対して日本の防衛省は国際法の規定に沿って上空からの識別確認を実施したものの、韓国軍艦船から応答なく火器管制レーダーのビーム照射を受けた周波数記録が残っているとして28日に証拠映像を公開しました。

日本の公開映像と韓国の反論

 防衛省が公開した映像には、P-1哨戒機が国際法に基づき行動目的を3つの周波数で確認していたにも関わらず韓国軍艦船が無視したこと、哨戒機がクァンゲト・デワンに接近すると2度火器管制レーダーのビーム照射を受けた様子が記録されていました。強力なレーダービームによる大きな雑音も映像音声から確認でき、韓国側が示した公式見解が矛盾すると明示しました。

 しかし、韓国国防省は公開された哨戒機からの映像を「レーダーが客観的に照射されている証拠と言えず遺憾」と表明しただけでなく、「救護活動していたわが国艦船に哨戒機が異常な低空飛行で接近したことに失望する」と付け加え、探索活動のために火器管制レーダーを使ったとする最初の見解と矛盾した姿勢を取ります。その言い訳として韓国国防省は年明け1月3日に意見動画をネット上で公開、7日には8ヵ国ごとに訳された動画を投稿して国際世論へ韓国の正当性を訴えました。

韓国の訴え

 韓国国防省が公開した映像は日本側の映像を活用して自国の立場を発表したもので、韓国軍艦船から撮影された映像は11秒ほどしか使われていませんでした。あえて話題性が共有されるよう8ヵ国語に訳された動画上で韓国国防省は4つの点に波及しています。

1:低空飛行による威嚇行為

 動画で最初に言及されているのが人道的な救出作戦中、なぜ日本の哨戒機が作戦を妨害するように低空飛行をして威嚇したのかという点です。日本側は韓国軍艦船が救出活動する様子を把握しながらも、駆逐艦クァンゲト・デワンへ高度150m・距離500mまで近づいて威嚇したと言っています。また、武装した軍用機が他国軍艦に低空威嚇飛行をしてはいけないとの言葉も添えて日本政府へ質問を投げかけています。

2:実際に国際法を順守したのか?

 低空飛行による識別確認行為に対し、動画では日本の防衛省が規定としている国際民間航空条約と国内法を紹介した上で、軍用機にも関わらず民間航空機の取り決めに批准しているのはお門違いだと主張。国際民間航空条約が軍用機に適用されないとの条文も紹介して、哨戒機による接近行為は国際法で定められていない威嚇行為だとする主旨を示しています。

3:火器管制レーダーの運用

 現場で運用されたレーダーに関連する点では捜索活動のため探索レーダーしか使用しておらず、動画上では直接的な表現をしていませんが火器管制レーダーは運用していないと暗に伝えています。加えて、日本の哨戒機が火器管制レーダーよりビーム照射を受けていると主張する映像場面では、なぜ1度ビームを受けていると判断しながらも再び接近したのか、韓国軍艦船が艦砲を哨戒機に向けていない事実を把握していたのになぜ執拗に接近したのか問い、仮に火器管制レーダーと艦砲が向けられていたなら即時回避するべきだったと訴えています。

4:通信環境について

 最後に、雑音のひどさから日本の哨戒機からの通信が駆逐艦クァンゲト・デワンへ正確に届いていなかったと動画は主張しています。加えて、実際に駆逐艦クァンゲト・デワンが受け取ったとする音声を公開、哨戒機が遠く離れた地点で呼びかけたため満足に受信できなかったとの見解を示しました。

言い訳がましい主張の矛盾

 4つの問題点を訴えた韓国国防省の動画ですが、公開してから間もなく日本側の映像を多用しているだけでなく明らかな画像加工が施されていると話題となり、日本国内では動画の正当性そのものを問題視する声が挙がっていることは周知の事実でしょう。実際、韓国の主張にはいくつか疑問点があります。

 まず先の項目で挙げた問題点1と2ですが、世界的にも軍用機が国際民間航空条約に則って哨戒活動を行っているのは特別珍しくことではなく、自衛隊の哨戒機が駆逐艦クァンゲト・デワンに高度150m・距離500mを保って哨戒活動を実施した点は世界的にも許容される行為です。さらに救護活動は日本のEEZ内で行われており、日本の哨戒機が偵察監視のため識別確認を行っても国際法上問題ありません。他国のEEZ内で救護活動を実施する行為も違法ではありませんが、いかなる理由があっても日本の哨戒機からの呼びかけに韓国軍艦船は応答するべきでした。

 問題点3で挙げている火器管制レーダーの運用については本来、救助を目的とした行動を取るだけならば探索レーダーのみ使用すれば事足りる話です。そもそも火器管制レーダーと探索レーダーでは構造・周波数パルス・指向性など、用途が異なるため戦闘といった非常時でもない限り併用して使用されることはまずありません。さらに突き詰めれば、一隻の北朝鮮籍の船を助けるため韓国軍は救難船だけでなく艦砲を搭載している駆逐艦も派遣しています。救難船だけでも任務上は支障がないはずなのに、なぜ駆逐艦と組んで救護任務に当たっていたのでしょうか。

 最後に日本側の呼びかけが雑音混じりで聞き取れなかったと韓国側が主張している問題点4ですが、自衛隊哨戒機が艦船番号を指定して3つの周波数による呼びかけを行っていた点からも、一概に受信できなかったと一蹴する様な発言は乱暴が過ぎます。さらに韓国側は哨戒機が韓国・海洋警察庁の艦艇を呼び出していると判断していたと声明を発表しており、あくまで疑われるような動きをした日本が悪いとしています。しかし、それを立証しうる証拠などを韓国は提示しておらず発言の信ぴょう性が疑われています。

北との密約があるのでは?

 韓国国防省が公開した動画には発言を裏付ける証拠がなく、あまつさえ国際民間航空条約といった各国の軍が順守している規定ですら日本が歪曲して認識していると訴えました。事態悪化を懸念する日本政府としても機密情報を伏せながら必要な情報交換を進めていく準備をしており、元徴用工問題と絡んで韓国政府も協議に場を設けようと動いています。

 しかし、レーダー照射問題を引き起こしたそもそもの原因である救護対象の船は北朝鮮籍であり、冷静に考えれば自国船籍でないにも関わらず韓国が自発的に他国のEEZまで赴いて北朝鮮の船を助ける行為は不自然です。加えて、国連による制裁手続きで北朝鮮は石油などの燃料を海外から輸入できない状況下にあり、専門家の記事からは日本海で遭難した北朝鮮籍の船を韓国軍が保護する密約が交わされているのではと推測も飛び出しています。確かに専門家の記事が主張する密約が実際に存在しているなら、韓国軍艦船が自衛隊哨戒機へ火器管制レーダーを照射した理由も国連制裁決議違反の発覚を防ぐためと説明がつきますし、韓国国防省のご飯論法戦術ともいえる意見発信も腑に落ちます。

 故に日本政府としては、なぜ韓国軍が北朝鮮籍の船を救護するため駆逐艦を派遣したのか詰問し、国連制裁決議に違反した物資供給を実施していないかを追及する必要に迫られるでしょう。2国間で発生した外交上の問題を明瞭にしなくてはアメリアを含めた同盟関係に亀裂も生じる上、中国とロシアとの安全保障問題にねじれが生まれる可能性もあります。

レーダー照射問題は穏便に終われない

 火器管制レーダー照射問題が浮き彫りとなってから、日本のメディア各社は1月10日に開かれる文在寅大統領の年頭記者会見で何らかの発言があると踏んでいました。ですが文大統領は国内向けに開かれた記者会見という名目からか外交問題を避け、停滞する経済に関わる話題を終始展開しています。

 ただ、問題発生直後から韓国政府の公式見解が何度も変わっている点、韓国国防省が公開している動画には理解に苦しむ部分が散見される点からも、韓国軍艦船によるレーダー照射は実際に行われたと考えてよいでしょう。仮に今後、北朝鮮籍の船を救護する密約が本当に実在していれば日韓関係の更なる悪化は避けられませんし、東アジアにおける安全保障同盟は間違いなく崩れます。事実と異なる見解を示し続ける韓国はいつまで言い訳を続けるのか、2度の火器管制レーダー照射から始まった外交問題は穏便には終われません。