海外メディアの関心が薄い日韓関係のレーダー照射問題

 韓国軍艦船が日本の自衛隊哨戒機に火器管制レーダーを照射した問題は海外では大きく報じられていません。当事国間では重大な関心事でしょうが国益に絡むアメリカメディアは多少取り扱っているものの、欧州メディアは通信社の記事を引用して自社で取材していません。ただ、軍事専門家界隈では韓国軍の非常識な動きを指摘する声は挙がっています。

火器管制レーダー照射のいがみ合い

 詳細は「火器管制レーダーを哨戒機に照射した韓国軍の言い訳」を一読していただけると分かるように、日本の排他的経済水域(EEZ)で韓国軍艦船が日本の自衛隊哨戒機へ砲撃照準を合わせる火器管制レーダーを照射。日本側が抗議したところ韓国側も反論に転じて外交関係に発展しました。

 証拠として日本の防衛省が哨戒機からの撮影映像と火器管制レーダー照射の瞬間を抑えた動画を公開すると、韓国国防省は客観的資料とは言えないとして8ヵ国語に翻訳された意見動画を制作。日本側の映像を大胆に使用しただけでなく持論を訴える内容に日本国内では大きく異論が飛び交っています。何かしらの波及があると期待された韓国・文在寅大統領の年頭会見でも日韓問題の話題は避けられ、唯一NHK記者が質問した元徴用工問題に関する質問では「真摯に対応するべき」と苦々しく返答されました。

 国内向けに開かれている会見の場とはいえ、自らの国で発生している外交問題にも関わらず口をつむぐ文大統領の姿勢に日本のメディア各社は非難しており、日本政府としても有効な解決策を模索するため韓国側と協議の準備を進めています。レーダー照射だけでなく、元徴用工判決に慰安婦財団の解散にも揺れる日韓関係の波乱は収まる気配を見せません。

独自性に欠けるAFPの記事

 レーダー照射は日本国内で騒がれると同時に韓国でも国防省の見解を基軸に情報が拡散される事態となっており、両国では対立を促す世論を煽る風潮が流れつつあります。これを世界3大通信社の1つ、フランス・AFP通信はどう伝えているのかと言えば提携している時事通信社の記事を原文のまま端的に伝えているだけです。

 最初のニュースは日韓の認識に隔たりがあるとする12月22日分の記事。この時点で韓国国防省は日本側との認識の違いを明白にしており、日本の防衛省も「銃を撃つ手前の状況で、故意でなければ意図が分からない」と遺憾を顕わにしていると伝えています。翌23日には韓国・聯合ニュースの記事を引用して韓国側の「威嚇の意図はなく、問題提議する日本の姿勢が理解できない」との記事を上げ、24日の記事ではビームは照射していないとする韓国側の見解を書き記しています。ここまでの報道は概ねレーダー照射問題にスポットを充てて伝えています。

 これが年末年始に入ると他の元徴用工と絡めて伝える記事が多くなりました。25日の記事では朝鮮日報からの引用で徴用工判決と同じく問題が長期化すると伝え、日本側が動画を公開した28日はAFPが自社で執筆して両国の反応を報じています。年が明けると、韓国側の動画公開に合わせた1月4日の記事などレーダー照射問題にフォーカスした時事通信の詳細な記事がみられるものの、1月7日の記事ではハンギョレ新聞の社説より「徴用工問題と合わせて日韓関係の基本を揺るがせてはならない」と報じています。その後、1月9日にアップされた徴用工関連の記事でレーダー照射問題に触れる部分があるなど、次第に共通する日韓の外交問題として取り上げる記事が増えています。

 無論、通信社はニュースを報道機関へ送る会社なので短く印象に残る記事を執筆するのは必然ですが、それを差し引いてもAFPの記者が執筆したレーダー照射問題絡みの記事は1本のみです。また、時事通信が配信した記事の多くは韓国の現地報道からトレースしている情報も多いため、AFPニュースとして世界に配信されるレーダー照射問題の報道は元徴用工関連の記事を含めて独自性に欠けると言わざるを得ません。

アメリカメディアの反応

 AFP通信におけるレーダー照射問題の記事が事実を伝えるだけの情報が目立つ一方、アメリカの報道各社は同盟国のイザコザに一応の関心は抱いている様子がうかがえます。ただ、やや韓国寄りの論調で執筆されている記事が目立つ点からは日本国内での報道が世界に届いていない印象を受けます。

 外交専門雑誌・National Interestのウェブ版記事では韓国側の言い分を軸に経過を紹介して、北朝鮮への脅威に備えるためにも騒ぎを拡大するべきでないと論じていると同時に、歴史認識の観点でリベラルな文政権と極右の安倍政権は相いれないと訴えています。また慰安婦問題を例に挙げて、2018年10月にJapan Timesが配信した記事が明らかな政治的圧力で「慰安婦」や「奴隷労働」といった表現を避けることを明言している点に注目。北朝鮮との新平和を模索する文大統領とは対照的に、安倍首相が強引な軍備拡張を進めているとの印象を受ける書き口の記事になっています。

 そして、軍事専門メディア・Defense Newsのウェブ版記事は客観的な視点で物事が語られていますが、南北融和の兆しが見えたことで韓国軍が仮想敵国としての日本を重要視するようになったと指摘しています。近く発行される2018年度版の韓国・国防白書でも、それまで「敵」と表現していた対象を「脅威となるすべての勢力」に変更しており、融和が期待される北朝鮮と軍拡姿勢を見せる日本への警戒と思しき条文改定が行われます。そのため、韓国軍が日本に対抗するため軍備拡張を進めるだけでなく同盟国であっても衝突する可能性を示唆しています。

 アメリカとしては東アジアの安全保障において日韓の協力は不可欠なため、急速に悪化していく日韓関係を好ましく思っていないのは容易に想像できます。ただ、韓国と北朝鮮の外交関係改善を評価して日本の軍拡姿勢を批判するアメリカメディアの記事は数多く、韓国メディアの英語発信力が日本メディアより勝ることも相まって安倍政権へ批判の矛先が向きつつあるのが現状です。

欧州では専門家が波及する程度

 同盟国アメリカとしては不安視されているレーダー照射問題ですが、外交上自らの国益に絡まない欧州メディアの大半はレーダー照射問題をAFP通信やAP通信などの記事を引用して配信、メディアによっては全く報じていません。日本国内で連日報道されている状況とは雲泥の差があります。

 欧州圏からの意見として目立っているものと言えば、イギリス・ロンドン大学のアレッシオ・パラターノ講師が専門知見より非は韓国側にあるとTwitter上で話題に挙げているくらいです。火器管制レーダー照射の意図を哨戒機が訊ねても韓国軍艦船が返答しなかったのは通常あり得ないとして、開戦の引き金にもなりかねない危険な行為に日本は詰問するべきと締めています。その後投稿された韓国国防省の意見動画にも、韓国の訴えが根本的に矛盾しているだけでなく日本側の映像を転載している意味のない意見動画だと斬っています。

 

 アメリカ・Defense Newsの記事然り軍事の専門家は概ね韓国の対日姿勢は異常だと指摘していますが、現在ヨーロッパでは「黄色いベスト」運動をはじめとするデモが問題視されているため(参考:マクロン大統領と富裕層を敵視するフランス労働者たち)、東アジアで発生している日韓の応酬合戦に興味を示す余裕がないのも事実です。ただ、デモ騒動によって関心が薄れている点を差し引いても自国の安保問題に関わらないレーダー照射問題に興味は示さないでしょう。

日韓基本条約は不完全

 結局は当事国間だけで大きな懸案事項として注目されている日韓関係の悪化を外交の専門家はどう見ているのか。早稲田大学韓国学研究所の李鍾元(イ・ジョンウォン)所長が韓国・中央日報の取材で放置すれば国際的な司法衝突もあり得るとの見方を語っています。

 前提として北朝鮮問題を抱える上で極端な葛藤を持ち続けるべきでないとしつつも、日韓基本条約が締結された当時の韓国とは違って民主化が達成された今日。人権意識の定着による新たな訴訟問題を両国政府が曖昧に対応しているのが外交の捻じれを生み出しているとしています。その上で、不完全な日韓基本条約を話し合いで補填するなりして司法での勝敗を決するべきでないと主張していますが、レーダー照射問題がエスカレートしていく現状は朝鮮半島の平和体制構築を遠ざけているだけと指摘しています。

 確かに、アジア最貧国とされた日韓基本条約提携時の韓国とは状況が違うのは同意できますし、安倍政権による日本の極右化も日韓関係の悪化に拍車をかけているでしょう。ですが、韓国の政治家も支持獲得のため反日感情を利用して国民を煽っている点は見逃せません。李所長が語る通り、互いが歩み寄りの姿勢を見せず対立が激化すれば国際舞台における司法対決は避けられないでしょう。

関心の薄い内輪揉め

 AFP通信は時事通信の記事をそのまま世界へ配信し、アメリカメディアは韓国の親北反日姿勢の変化を伝えて欧州メディアは総スカン。この状況から察するに、日本のメディア各社が伝えている膨大な量のレーダー照射問題絡みの記事は海外へ漏れ出ることなく、国民の内輪問題意識を高めているだけと考えてよさそうです。

 ただ、海外の軍事専門家たちは韓国軍の行動は許容されるものではないと一貫して主張しており、2018年10月に発生した旭日旗問題(詳細は旭日旗を禁じた韓国の国威発揚観艦式にて)と絡めて裁判となれば韓国側が不利となる要素が多いと指摘しています。そのため、仮に国際司法裁判となれば日本の優勢は確実でしょうが日韓関係に深い禍根を残すのは言うまでもありません。国際世論の関心の薄さからしても2国間での解決が望ましいでしょうし、両国政府は自国第一主義を押し出さない穏便な解決策を模索していくべきです。