親中軽日化を進める韓国政府

 日韓関係の深刻な悪化が叫ばれる裏で韓国の文在寅大統領は親中路線へ舵を取りつつあります。2018年11月のAPEC会場にて開催された中韓首脳会談で文政権は中国が推し進める一帯一路構想を支持する考えを明言し、韓国軍の2018年度版防衛白書でも中国との協調を念頭にしたと見られる文言変更が実施され、日本政府に緊張感を与えています。

応酬しあう日韓の影に中国

 北朝鮮の核実験が頻発していた2017年ごろまで協力関係を築いてきた日韓ですが、2018年の平昌オリンピックで南北融和ムードが高まると外交関係の亀裂が浮き彫りとなりました。板門店宣言からの米朝首脳会談と大きな政治的イベントと並行して慰安婦問題や元徴用工による訴訟問題は次第に表立ち、2018年10月30日には日系企業への賠償を命じる元徴用工裁判の判決が下され日韓関係に衝撃が走ります。

 日本政府が日韓請求権協定に基づいた協議を韓国政府へ求める事態に発展した矢先の2018年12月20日には、能登半島沖の日本海にて韓国軍艦船が日本の自衛隊哨戒機に対して火器管制レーダーを照射する重大インシデントが発生。日本側が客観的な資料を提示して問題提議したにも関わらず、韓国側は証拠を示さずに日本が公開した映像等を用いて持論を展開する8ヵ国語の動画を制作して国際世論に訴えかけました(詳細は海外メディアの関心が薄い日韓関係のレーダー照射問題にて)。さらに、日本側がレーダー周波数資料などを交換するよう韓国側へ提案すると「非常に無礼だ」と反発され、交渉不可能だと判断した防衛省は火器管制レーダーの照射音をHPで公開して協議中断を発表しました。

 弾道ミサイルという共通の脅威が消えた瞬間に歪み始めた日韓関係。ただ忘れてはいけないのは、平昌オリンピックをキッカケとした南北融和ムードを境に韓国が対日姿勢を硬化させた点です。そしてこれには、南北融和をおいて重要なカギを握る中国にすり寄ろうと目論む韓国政府の親中姿勢が見え隠れしています。

北朝鮮を巡る中韓の動き

 思えば北朝鮮が弾道ミサイルの発射実験を繰り返していた時期、韓国は在韓米軍の協力を得てミサイル迎撃システムTHAADを韓国全土へ配置しました。これに自国領土が射程に入る挑発的な言動だと中国が怒り、俗に言われる禁韓令が発令されて中国人観光客が韓国を訪問しなくなった末に韓国経済は大打撃を受けました。しかし、文在寅大統領による南北融和方針が推進されると中国も禁韓令を緩めるなど態度を和らげます。

 さらに国連からの制裁に苦しむ北朝鮮は2018年3月から6月にかけて3度。2019年に入ってすぐに1度中国へ出向き、中朝首脳会談を実施して外交上の解決策を模索しようと躍起になっています。シンガポールで行われた米朝首脳会談へ向かう際も北朝鮮は中国より飛行機の提供を受けており、厳しい経済状態を打破するためにも北朝鮮は親中姿勢を図らずもアピールしているのです。さらに、シンガポールの会談で合意された非核化の進展でアメリカとの交渉に行き詰まり感が否めないことも、中国からの助力が欲しい北朝鮮を親中路線へ走らせる大きな原動力となっているのは否定できません。南北統一を見据えている韓国としても北朝鮮の親中方針を無視できない空気が政財界で支配的になりつつあるのです。

 韓国の文大統領も敏感に反応して2018年4月の板門店宣言以後、2度の南北首脳会談を通じて同年9月に北朝鮮の金正恩党委員長と平壌共同宣言に署名。南北両軍ともに軍事境界線上の監視所の撤去を開始しただけでなく、南北をつなげる鉄道や道路を着工すること、開城工業団地や金剛山地域観光事業の再開などに合意しました。その裏で、文政権は悪化した中国との信頼関係を取り戻そうと動いてきたのです。

韓国の親中路線を窺う

 去る2018年11月17日・18日にパプアニューギニアで開催されたAPEC首脳会議にて中韓首脳会談が実施され、文大統領は中国の習近平国家主席に一帯一路構想を全面的に支持すると表明しました。対する中国側は平和的な南北関係の進展を期待する証として、平壌共同宣言の取り決めにある2032年夏季五輪の南北共同開催を積極的に支援すると明言したのです。

 禁韓令によって受けた経済的損失を上向かせるには中国との関係改善を図らなければならない。文大統領としては低迷する景気状況を生み出した主要因へ対処しなくては国民に納得されないと考えると同時に、北朝鮮の親中化と南北融和によって外交関係における中国の重要性が増したため、中国が進める一帯一路を支持する態度を強い表現で示したのです。つまり、これまで共通の仮想敵国として中国と北朝鮮を目してきた日韓ですが、停滞経済を回復する意図と中国を頼る北朝鮮に引っ張られる構図で韓国は親中路線に舵を切っていると言えます。

 このことは、2019年1月15日に発行された韓国国防省の2018年度版国防白書からもうかがい知れます。対日関係の項目では「日韓両国は自由民主主義と市場経済の基本価値を共有する」とこれまで明記されていましたが、2018年度版国防白書では文言が削除されました。同じように北朝鮮の項目で記述されていた「北朝鮮の政権と北朝鮮軍は我々の敵である」という表現がなくなり、周辺国との交流を記した項目でも以前は協力国筆頭として日本が挙げられていたにも関わらず2018年度版では中国が最初に挙げられるなど、韓国が安保的な面でも日本と距離を取ろうとしている様子が感じ取れます。さらに、THAAD配備で冷え込んだはずの軍事交流も2018年度版国防白書が発行される前日、士官候補生を乗せた韓国海軍艦船が上海・呉淞軍港に寄港しており軍事面でも中韓接近が見て取れます。

 中韓首脳会談の場では結束強化を明示して軍事面でも互いの立場を尊重し合う。南北融和から始まった朝鮮半島情勢の揺らぎは確実に韓国政府の考えを親中寄りとして、歴史問題を抱える日本を軽視する政治的判断をしたとも言えるのです。それだけ今の韓国は経済的苦境に立たされており、文大統領としては南北融和を含めた国益の最善手として中国へ近づく選択をしているのです。

中国主導による南北併合は難しい?

 文大統領による親中路線によって朝鮮半島が中国主導で統一されるとの見立てが専門家から湧きつつあります。事実、アメリカのドナルド・トランプ大統領は自国第一主義に基づいた在韓米軍の総撤退をちらつかせており、実現すれば事実上の防衛ラインが北緯38度線から日本近海の対馬沖まで引き下がります。界隈で叫ばれている安保環境の変化は日本の防衛政策に多大な影響を与えるのは言うまでもないでしょう。

 ですが、時の政権による親中路線は韓国国民の支持を集めるかは困難と言わざるを得ません。中国政府直下のシンクタンク・中国現代国際関係研究院が2018年10月に刊行した媒体によると、米中間で軍事衝突が発生した際に中国を支持すると答えた韓国人は1.1%に過ぎず、中立52.5%・アメリカ支持39.2%と大きく水をあけられていました。加えて、言語普及率でも英語が92.7%と高い水準なのに対して中国語は56.9%に留まっており、韓国における嫌中感情が高ぶっていた2017年10月のサンプリングデータではあるものの、いかに韓国人がアメリカとの関係を重要視しているかうかがえる統計となっています。

 平昌オリンピックを経て南北融和の声が高まっている2019年初頭と状況は違いますが、公開されたデータからは韓国人が中国に対してアメリカ人より良い心象を抱いていない現実が浮き彫りとなっています。故に文大統領は、国民感情に配慮しない親中政策を推し進めれば支持率を落とす可能性を抱えている一方、北朝鮮と歩調を合わせて中国寄りの政策を進めなければ経済回復が難しくなる二重苦に板挟みされているのです。

日米韓の同盟が本当に崩れるのか

 文大統領が最重要視しているのは経済回復と南北統合であり、旧来から維持されている日米韓同盟を必ずしも順守することではありません。願う理想のためなら中国への歩み寄りも国民からの反対意見を押し切って実行するでしょうし、北朝鮮と歩調を合わせて南北統一が実現すれば批判も静まると心中思っていても不思議ではないでしょう。

 ただ、歴史的に紡いできたアメリカや日本との同盟をないがしろにする行動は国民が許さないでしょうし、中国資本による過度な景気回復策を執ればモルディブで発生した様な一帯一路反発論争にも発展しかねません。一方で分断された同じ朝鮮民族の同胞を救うため最善の選択を執るとなれば、否が応にも親中路線を選択しなくては話が進まないのも現実です。強硬に親中政策を推進しても国内世論が反発必至ならば、韓国は東アジア地域における調整役・日本の立場を尊重した外交姿勢を示して、円滑な朝鮮半島統一プロセスを築いていくための土壌造りに努めなければなりません。