イギリス捕鯨反対デモから考える日本捕鯨

 イギリス・ロンドンで日本の調査捕鯨に反対するデモが2019年1月26日に実施されました。排他的経済水域(EEZ)内での商業捕鯨再開を明言して日本が2018年末にIWC(国際捕鯨委員会)を脱退して以来、世界各国では日本製品のボイコット運動などが叫ばれています。しかし、日本政府は歴史的な文化保全を建前にして国際社会の批判をないがしろにしています。

日本捕鯨の歴史

 日本捕鯨の歴史は縄文時代にまで遡り江戸時代に入って専門漁業団・鯨組が結成され網取り式漁法が浸透すると、小型クジラだけでなく巨大なシロナガスクジラなども捕鯨されるようになりました。石油が定着していなかった19世紀以前の世界ではクジラから取れる鯨油は燃料として重宝され、四方海で囲まれた日本も例外なく捕鯨が歴史的文化として定着していたのです。

 一方、度重なるクジラの捕獲によって20世紀初頭に入るころには北半球に生息するクジラの個体数は激減します。資源枯渇の危機にイギリスやノルウェーをはじめとする捕鯨先進国は新たな漁場を求めて南極海で捕鯨を始め、日本も後に続いて捕鯨したクジラの数を競い合う「捕鯨オリンピック」と呼ばれる乱獲時代が到来しました。ですが、第二次世界大戦を機に石油が鯨油の代わりとして急速に定着すると無暗な捕鯨を実施する意義は失われ、減り過ぎたクジラの個体数回復を目的に国際機関IWCが1948年に設立されます。1963年に南極海でのザトウクジラ捕獲禁止とイギリスの捕鯨撤退を皮切りとして、1982年には専門家の意見を基に国際的な捕鯨一時停止が決議され、1986年になると商業捕鯨は原則禁止となりました。

 これに待ったをかけたのが日本やノルウェーといった歴史的な捕鯨文化継承を訴える国々でした。特に日本は日中戦争が開戦した時期から資源としてのクジラ活用が浸透して既得権益が生まれ、国際的な非難を浴びながらも1988年まで商業捕鯨を続けます。当然、長い年月より文化として定着した捕鯨を続けようとする現場の人々も捕鯨継続を望み、くすぶり続けた利害関係者の反発意思が2018年末に日本のIWC脱退を促しました。

IWC脱退に自民党重鎮の影

 日本政府が捕鯨を推奨するのはクジラ漁を生業としている人々の声を反映しているだけでなく、二次大戦によって根付いてしまった捕鯨利権が絡む要素が多分にあるのです。現在でも和歌山県太地町で行われるイルカ捕鯨は国際的に問題視されていますが、政府与党・自民党重鎮の二階俊博議員が支持基盤とする地域からの捕鯨継続の声によってイルカ漁は中止される様子すらありません。

 政治家家系出身の二階議員は和歌山県南部の広大な地域に支援者を抱えており、以前にも年金資金で運営されていた那智勝浦町の保養施設を無償譲渡するなど、職権乱用が疑われる話がちらついていました。ただ、捕鯨については推進する立場を明確に示していることもあり捕鯨漁師からは不正疑惑が挙がっても強い支持を集めています。それだけでなく、二階議員は40人以上の自民党国会議員を束ねる党内派閥・志師会(通称:二階派)の会長も務めており、日本の捕鯨産業が活発だった時代を知る他会派のベテラン議員の支持も相まって日本政府は捕鯨を推進しているのです。

 太地の捕鯨漁師にとって歴史を紡いできたクジラ漁を守ろうと奮闘する二階議員の存在は神に等しく、地元財界の人々も古株議員との太いパイプによって利益享受している節があります。地元の歴史認識を原動力としている二階議員の存在が自民党内で際立つ限り、日本政府が捕鯨中止を進めることはあり得ません。

#boycottjapaneseproducts キャンペーン広がる

 捕鯨を保全するべき歴史文化と捉える与党幹部と支持者達の声によって日本政府は国際社会の批判を顧みず2018年12月26日、正式にIWCを脱退して2019年7月を念頭にEEZ内で商業捕鯨の再開を表明しました。すると捕鯨反対の立場を示すオーストラリアやニュージーランド、EU加盟国を中心に日本製品への不買運動が展開されはじめます。

 予てから反捕鯨の筆頭とされるオーストラリア政府からは「日本のIWC早期復帰と願うと共に商業捕鯨だけでなく、いわゆる調査捕鯨に対する反対の立場も変わらない」と早々に声明を発表し、イギリス各メディアも日本の商業捕鯨再開に厳しい意見を並べました。また、日本が商業捕鯨再開へ本格的に動き出す2ヵ月後にはラグビーワールドカップが日本で開催されるため、奇しくもラグビー強豪国であるオーストラリアやイギリスではラグビーW杯のスポンサーである日本企業製品に対する不買運動が広がっています。

 Twitter上で#boycottjapaneseproductsのタグが付けられた不買運動は何も捕鯨反対の訴えだけではありません。クジラの仲間であるジュゴンが生息していた沖縄・辺野古でのアメリカ軍基地建設への反対意思や、不正賄賂によって招致された東京五輪に対するボイコット運動が日本製品不買運動に拍車をかけつつあります。そのため、元々ラグビーW杯のスポンサー企業だけに展開されていた不買運動は次第に他の日本企業にも波及しており、表沙汰の声明では発表されていませんが名が挙がった日本企業が少なからず警戒していてもおかしくありません。

 そして、イギリスではボリス・ジョンソン前ロンドン市長の父親で環境活動家のスタンレー・ジョンソン氏などの呼びかけで、2019年1月26日にロンドンの日本大使館へ向かうデモ行進が実施されました。

ロンドンの反捕鯨デモ

 Shame JAPAN(日本の恥)を書かれたプラカードを持ってロンドン中心街を行進した350人ほどのデモ参加者たちは商業捕鯨への反対だけでなく、不正にまみれた東京五輪の中止を訴えながら休日の日本大使館前に到着するとシュプレヒコールを挙げて健全な歴史保全ではないと訴えました。

 個々にデモへ参加したキッカケは違うものの、デモ参加者は捕鯨を続ける恥さらし国家が国際大会のホストを務めるのはおかしいという点では一致した見解を持っています。「IWC脱退は恐ろしいニュースで、日本は素晴らしい歴史文化を持ち合わせているのに自らを貶めている」、「日本政府としても事情はあるのだろうが、捕鯨文化の尊重はやめてもらいたい」とデモ参加者が一貫して捕鯨への理解に苦しむ姿勢からも、日本政府のIWC脱退は少なくともイギリス国民に動揺と反感を買っているのです。主催者であるジョンソン氏も「暴力的かつ非人道的ともいえる行には何かしらの制裁を加えなければならない」と高らかに叫んでおり、語気の強い発言からは捕鯨と五輪を絡めた反発がイギリス国内で高まっていることが伺えます。

 他の主催者も「日本を先例としてIWCを脱退する国が増えかねず危惧している。アメリカ、オーストラリア、カナダでも同様のデモが計画されており、その先駆となるデモがロンドンで実施されただけ」と話しており、今後はイギリスだけでなく世界各地で捕鯨反対を訴えるデモや日本製品の不買運動が活発化しても不思議ではありません。

国際信用の低下しか招かない捕鯨

 イギリスの有力政治家でもあったジョンソン氏が主宰となり実施されたデモ参加者の思いを聞けば、今日の国際社会において日本の捕鯨活動続行が諸外国から冷ややかな目線で見られているのが理解できます。対して、捕鯨継続の望む地元漁師も歴史的な意義と伝えようと努力している節もありますが、きな臭い噂が付きまとう二階議員などの有力政治家を経由しないと自らの立場を訴えられないのが現状です。

 歴史的な側面から読み解いても石油の登場により欧米で鯨油を利用する意味が失せたのとは対照的に、日本は戦争を発端として捕鯨活動に邁進する文化が政界と捕鯨漁師の間で強固に共有されてしまった過去を持ちます。世界がクジラの生息数を保全しようと躍起となっていた時期、日本は戦後の貧しさから国際社会と逆行する捕鯨を推進してきたのです。21世紀に入っても浮き出ている膿は日本の国際信用を低下させる大きな要因にもなりかねません。オリンピックの不正招致が欧米圏で報じられている現状を鑑みても、捕鯨継続は日本政府をより窮地に陥れる判断としか言えないのです。