イタリア政府と極右大衆政党の接近

 移民問題を発端としてフランスとイタリアが対立を深めています。2018年6月の政権発足以来、イタリアのマッテオ・サルヴィーニ副首相がフランスの移民政策に苦言を連発しています。また、マクロン大統領が頭を悩ませる黄色いベスト運動の中心人物とイタリア与党が接触を図り、悪意ある言動を繰り返しているとしてフランス政府は不満を募らせています。

極右大衆政権となったイタリア

 長い政治腐敗による不満が噴出したイタリアでは2018年総選挙によって、新興インターネット政党・五つ星運動とイタリア北部を支持基盤とする極右・同盟による連立政権が誕生しました。以来、イタリア政府は同盟党首でもあるサルヴィーニ副首相らが主導して地中海から渡航してくる不法移民への規制を強化します。

 アラブの春による中東や北アフリカの混乱以来、安定した生活を求めて地中海をボートで渡りイタリアやスペインを目指す難民が激増しました。当時、与党だった民主党を中心とする連立政権も世論に押され地中海対岸のリビアと2017年に移民を抑制する協定を結び、違法な移民船をアフリカ方面へ送り返す状況が続いていたのです。この状況に予てから移民排斥を訴えてきた同盟の議員は政権発足後すぐ、同じく地中海対岸のチュニジアへ犯罪者を輸出しているとの見方を示して北アフリカ諸国に波紋を呼びました。その後、イタリアを目指した移民団がスペインへ寄港するようになりEU加盟国から批判が殺到。サルヴィーニ副首相も世論を鑑みてEUとの交渉期間中のみ移民受け入れを許しましたが、移民問題の対応に渋々応じている様子は欧州各国の心象を悪くします。

 現在EU圏の難民受け入れ態勢は、移民問題に寛容なスペインのサンチェス政権による政策によって一時期より安定を見せています。他方、イタリア政府は移民受け入れに積極的だった農村の村長を移民制度悪用の疑いで逮捕するなど、同盟先導による移民排斥への動きが活発化しています。

黄色いベスト運動に歩調を合わせて

 地中海から北上してくる移民に待ったをかけ、国内の留まる難民にも圧力をかけるイタリア政府の方針に欧州各国からは問題に向き合っていないと非難されます。一方フランスでは11月に入り、黄色いベスト運動による抗議デモが激化してマクロン政権は対応に追われました。移民問題への関心が希薄になる状況下、イタリアでも次第に黄色いベスト運動を支持する動きが加速します。

 黄色いベスト運動によるデモが10万人規模に膨れ上がっていた2018年12月初頭のイギリス・ガーディアン紙には、イタリア・トリノの露天商らによってFacebook上で公開されたオンライン講演会が数千人の視聴者を集めたと報じています。登壇者たちは「黄色いベスト運動に触発されて声を挙げているが、私たちはイタリア政府を支持している」と話し、「私たちが抗議しているのはヨーロッパ社会で、EUが抱える(移民問題などの)諸問題をイタリアに押し付けられたくない」と訴えたのです。こうした支持基盤の動きに応えるかのごとく、大衆主義を掲げる五つ星運動と同盟の連立政権は黄色いベスト運動幹部へ近づきます。

 年が明け2月には、五つ星運動党首のルイジ・ディマイオ副首相が黄色いベスト運動の中心人物クリストフ・シャランソン氏らとパリ近辺で面会を果たし、大衆による反エリートへの結束を訴えただけでなく「変化の風がアルプスを越えた」とディマイオ副首相がTwitter上で発信しました。さらに同盟党首のサルヴィーニ副首相もフランスに流れ込む移民をイタリアへ送還しないようマクロン大統領に求め、フランスは根本的な(労働者)問題に目を向けて取り組むべきと責める発言をします。

 内政干渉とも取れるイタリア与党党首の言動にマクロン大統領も遺憾の意を顕わにして在仏イタリア大使を召還、注意喚起する異例の措置を執りました。マクロン大統領は1月にもディマイオ副首相の「フランスはアフリカの植民地化を止めていない」との発言から在仏イタリア大使を呼び出しており、移民問題と黄色いベスト運動の問題が重なり合った拗れはフランスがとイタリアの対立を次第に鮮明化させているのです。

欧州議会を念頭とした極右結束

 移民問題に加えて、黄色いベスト運動に絡んだ労働者問題おけるフランス政府の対応に苦言を呈するディマイオ副首相とサルヴィーニ副首相。両氏がマクロン大統領へ辛辣な言葉を浴びせるのはフランス与党・共和国前進が民衆に寄与しない。富裕層優遇策へ批判する姿勢を示すだけでなく2019年5月に迫る欧州議会選挙を意識した面があります。

 アラブの春から続く移民問題や労働者問題の流れが尾を引き、欧州圏では移民排斥を謳う極右大衆主義が広がりました。特にメルケル首相による移民懐柔政策を執ったドイツでは容認派と排斥派によるにらみ合いが国内世論を二分させ、排斥派が新興政党・ドイツのための選択肢(AfD)を立ち上げると急速に勢力を拡大。2018年10月には連邦議会(国会)と全州議会に議席を獲得するまでに至りました。無論、隣国で発生している移民問題の余波はイタリアにも衝撃を与えており、五つ星運動や同盟がイタリア国会選挙で第1・第2会派に躍進できたのも移民問題に満足な解決策を見いだせない。既存政治への苛立ちが国政に反映された結果ともいえるのです。

 極右大衆政党の結束を呼びかける動きも活発化しています。かつて、アメリカ・トランプ大統領の下で主席補佐官を務めていた。スティーブン・バノン氏がベルキーのブリュッセルにて支援財団「ムーブメント」を立ち上げ、フランスの国民連合やハンガリーのフィデスなど極右大衆政党への財政支援に乗り出したため、イタリア連立政権も相乗りしようと近づいています。最も極右大衆政党である同盟は理念を共有する国民連合やAfDとの関係構築に勤しんできました。こうした動きにフランス外務省は「欧州議会に向けた選挙運動とは言え、他国の民主主義に敬意を払われないのは許されない」と声明を出しており、欧州圏の協調を掲げるEUの理念に反すると暗に示したのです。

 現行のフランス政府は共和国前進が推進する痛みを伴う改革によって民衆が苦しめられており、黄色いベスト運動参加者にはイタリア政府の方が薄皮一枚マシだと捉える人々もいます。とはいえ、大衆による政治変革の願いは極右政党の勢力拡大を助長しているため、多様性を重んじるデモ参加者にとっては迫る欧州議会選挙を終えたのち、右翼勢力の勢いによってヨーロッパが分断されないか。ジレンマと憂慮を抱えているのです。

極右台頭の憂慮

 移民問題だけでなく黄色いベスト運動の中心人物に接触した件を問題視しているフランス政府は、五つ星運動と同盟の言動は多様性を損ねる危険な行動として警戒感を顕わにしています。対して、2人の副首相を束ねるイタリアのジュゼッペ・コンテ首相は「仏伊関係は歴史に根差すもので、何かの出来事によって疑念を持たれるものではない」と発言。伝統的同盟国の結束は容易くは緩まないと釘を刺しました。

 ですが、欧州議会を意識した極右大衆政党が結束する動きは火を見るよりも明らかで、マクロン政権としてもEUが重んじる多様性社会が欧州議会選挙をキッカケに崩れる事態は避けたい思いがあります。それは、移民問題の当事者であるアフリカ出身者や黄色いベスト運動参加者も同様に懸念している問題で、極右の台頭は望ましくないと考えている人々は少なくありません。五つ星運動と同盟による大衆の望みを叶える政治は欧州圏の民衆が求めてきた政治体制とも言えますが、国際的に協調が重んじられる今日おいて極右大衆政治を推進するイタリア政府の姿勢は危険だ。と、多くのヨーロッパ大衆は考えているのです。