イタリアの一帯一路参加で揺らぐEU

 イタリアがG7メンバーとして初めて中国主導の一帯一路構想に参加表明して波紋が広がっています。イタリアは主要産業の工芸品の多くが中国の富裕層に購入されていることを背景に中国によるインフラ開発と通称協定に乗り出した格好ですが、中国資本による一帯一路のインフラ開発による評判が悪いことからフランスやドイツは警戒感を顕わにしています。

G7初の一帯一路参加

 習近平国家主席はじめとする中国外交団は2019年3月下旬にイタリア、モナコ、フランスを訪れて会談に臨みました。中国にとっては国際社会への影響力を拡大させるためヨーロッパ各国にも一帯一路の参加を働きかけており、特にイタリアはすでに一帯一路に参加している東欧やバルカン各国が海の玄関口としているトリエステ湾を抱えるため、中国は以前より強く興味を示していました。

 対するイタリアは以前から財政難が叫ばれており各経済指標も上向き基調ではありません。2018年に発足したネット政党・五つ星運動と極右政党・同盟によるジュセッペ・コンテ政権による大衆優遇経済策によって、最低所得を補償するベーシックインカムを給付する法案が検討されるなど足元の消費を喚起しようと四苦八苦しています。そのため、イタリア政府としては外資による安定した収入源を確保したいがため中国との関係を深める狙いがあり、中国資本による投資を呼び込みイタリア工芸製品を売り込む公算を持って2019年3月23日に一帯一路へ署名したのです。

 一帯一路への参加でイタリアは東のトリエステ湾や西にあるジェノバ港の再開発を中国企業へ委託するだけでなく、ファーウェイによる次世代5G通信網の拠点開発がイタリア国内で実施される見込みも濃くなりました。そして中国物品の輸入量を増やす代わりに、イタリアは自国の高級ブランド品を中国へ優遇して輸出する措置が取られる覚書も交わされ、中国におけるメイド・イン・イタリーの販売網強化の下地を敷くことに成功したと言えます。インフラ開発に弱みを持つイタリアの産業基盤を考慮すれば、中国による湾岸開発と新規流通経路の確保は国内経済を活性化させる起爆剤となり得ます。

 G7に名を連ねる経済大国ながらも家具や服飾品に依存する産業構造で近年のICT化社会の波に乗り遅れているイタリアにとって、一帯一路によるインフラ開発促進と工芸品販路の拡大は進んで望むところでしょう。そして、中国としても旧西側諸国からの非難が多い一帯一路構想の正当性を訴えるうえでもG7メンバーの一帯一路参加は大きなプラス材料になったと言えます。

対中関係で足並み揃わぬEU諸国

 イタリア政府としては中国の一帯一路による国内のインフラ開発は喜ばしい話ですが、これまでも債務漬けにして参加国の市場を独占してきた中国の一帯一路構想にフランスやドイツは警戒感を示しています。しかしながら、西欧諸国と比べてインフラ開発で遅れを取る東欧諸国の多くが対中関係を深める狙いで一帯一路に参加している節もあり、仏独両国が訴えているEUの結束が緩みつつあります。

距離を取りたいEU盟主国

 イタリアとモナコの首脳会談を終えた中国外交団はフランス入りして2019年3月26日。仏独の大統領とEU委員長との会談を実施しましたが、EU側は記者会見にてイタリアの一帯一路参加を歓迎しないコメントを発表しました。フランスのエマニュエル・マクロン大統領は「EUの結束を尊重するように」と釘を刺す発言をしている点からも、中国によるヨーロッパへの過干渉に懸念を示している様子が伺えます。

 実は会談前に開催されたEU首脳会談にて中国を国際市場における競争相手とみなす新戦略が協議されたばかりで、仏独両国は一帯一路によるインフラ開発投資を受けた開発途上国の財務状況が悪化している事実を挙げ、中国式の投資モデルをヨーロッパに根付かせる訳にはいかないとEU加盟国に訴えていたのです。ベネルクス3ヵ国も含めて仏独が一帯一路へ懸念を示している最大の理由は、インフラ開発に現地企業が合同参画しようとも主導権を中国企業が握る点です。中国共産党による一党支配体制を維持するため、外資企業が中国に製造拠点を設ける際は必ず中国企業との合弁としなければ中国で法人は設立できません。このルールが中国領土外の開発であるはずの一帯一路によるインフラ開発にも運用されており、資本力による開発途上国の支配だと西欧諸国は予てより非難してきました。

 とは言え巨大マーケットである中国市場を西欧各国も見逃すことはできず、マクロン大統領は習主席との中仏首脳会談の際に欧州の航空機メーカー・エアバス社の旅客機300機を中国向けに販売する契約を結んでいます。イタリアと違って、ヨーロッパ全体の利益を考えているフランスなどのEU盟主国は不用意に関係を深めず、巨大市場たる中国との取引に臨んでいるのです。

関係を結んでいる東欧諸国

 国際的なインフラ開発事業の競争関係だと目しているだけでなく、中国式のインフラ開発モデルに嫌悪感を示しているのがEUをけん引するフランスやドイツなどの盟主国家の総意です。対して、EUに加盟しながらも自国の若い労働人材を西欧諸国に奪われていると叫ぶ。東欧諸国やバルカン地域では以前から西欧企業によるインフラ開発の遅さに苛立ちを見せており、スピーディーなインフラ開発に期待を込めて一帯一路に進んで参加していきました。

 そもそも東欧諸国は旧共産圏として中国と関係が近しい間柄ではありますが、それ以上に中国が2012年時点で16+1構想により東欧各国を懐柔したのは消費国である西欧諸国の玄関口として、インフラ開発が進んでいない東欧地域を抑えておきたかった狙いがあります。現在、東欧とバルカン半島において一帯一路に参加していないのは中国が国家承認していないコソボのみという点からも、東欧各国が中国との関係をいかに重要視しているのか理解できるでしょう。ですが、一帯一路によるインフラ工事は順調に進んでいる訳ではありません。一帯一路の発足間もなく着工がはじまったハンガリー・ブダペスト~セルビア・ベオグラード間の高速鉄道開発の工期は遅れ、モンテネグロにおける高速道路建設では予算が膨れ上がり債務危機が叫ばれている始末です。さすがに東欧諸国も現状の対中関係維持に疑念を抱いていますが、東欧各国にとっては過去インフラ開発の後回しにしてきた西欧企業の意向に従うのに高い心理的ハードルがあります。

 こういった東欧諸国の対中関係への不安感も、中国がイタリアとの関係を築きたかった大きな要因と言っても差し支えありません。工期の遅れや着工予算の増加で16+1構想から続く中国と東欧地域の信頼関係にヒビが入っており、中国としてはG7国家イタリアの一帯一路入りを実績として不信感を和らげようと必死になっています。

5G実験場としてのモナコ

 フランスやドイツが高らかに声を挙げてもヨーロッパが一枚岩になれない理由の一つがインフラ整備の格差で、イタリアや東欧地域はその解決策として中国との関係強化に踏み切ったのです。そういったEU内のもつれを他所に、フランスに隣接する都市国家モナコはファーウェイ製の5G通信設備の実験を行う方針を明らかにしています。

 世界有数の高級リゾート地として知られるモナコはカジノなどのレジャー業で税収入を稼ぐ一方、外資企業を格安の法人税で優遇する租税回避地として世界中の富が自然に集まる特殊な国家です。そのため、中国は都市国家特有の条件に目をつけてファーウェイが開発した次世代通信網5Gの実験場としてモナコとの交渉を望んだのです。イタリアとの一帯一路交渉を終えた翌日、モナコ大公アルベール2世が習主席を温かく出迎えると滞りなくファーウェイによる5G通信網開発が締結されました。これにけげんな表情を浮かべたのがモナコの宗主国的立場でもあるフランスです。中国外交団が訪れることを見越して会談前にEU首脳会談で対中関係への警鐘を鳴らしたにも関わらず、イタリアの一帯一路参加に続く中国のヨーロッパ干渉はフランスにとって受け入れがたい動きに他なりません。

 EUとしてはアメリカと歩調を合わせてファーウェイ製品の排斥を進めたい気持ちがあります。しかし、ドイツは国内通信網整備の遅れから5G通信網の入札企業候補にファーウェイを外さなかったため、EU加盟国内では事実上フランスやベネルクス諸国のみがファーウェイ製品に反発している状況に陥っているのです。そういった意味では、ファーウェイによるモナコ国内のG5通信網の開発締結は欧州地域の対中姿勢に一貫性がない現れでもあるのです。

経済疲弊国家に広がる一帯一路

 主たる産業である工芸品の新販路を獲得したいイタリア。EU圏の結束を崩壊させる悪しき経済構想として警戒するフランスやドイツ。独自路線を行くモナコ。そして、西欧企業によるインフラ開発の遅さから関係を深めたものの新たな開発課題に苦しむ東欧地域。中国を巡る欧州各国の関係性の違いがハッキリしているのは紛れもない事実です。

 同盟国であるアメリカが中国との貿易戦争に突入している以上、EUとしてもアメリカとの同盟関係を意識した行動を執りたいのがEU発足メンバーでもある仏独やベネルクス諸国の本音です。しかしながら難民問題によるヨーロッパの混乱から東欧のインフラ開発が遅れた結果、中国と東欧諸国が関係を深める事態となりヨーロッパ各国の結束意識が崩れる要因となりました。中国がイタリアとの一帯一路参加を促したのも、そうした西欧先進国の態度に不満を抱く東欧諸国との関係をより強固としたい思惑からで、インフラ開発で問題が山積しようとも中国はヨーロッパにおける影響力を着実に広げています。EU加盟国でも指折りの経済大国であるイタリアが周辺国の反対を押し切って一帯一路に参加したことは、かつて語られた「一つのヨーロッパ」の概念を揺るがしかねない兆候とも言い切れるでしょう。