同性婚合法化を実現した台湾社会の課題

 同性婚合法化の議論が過熱していた台湾で2019年5月17日。同性婚の特別法案が国会にあたる立法院にて民主進歩党(通称:民進党)の賛成多数で可決され、立法院前に集まっていたLGBTや同性婚支援者が歓喜しました。しかし、法的に同性婚が認められたものの今後クリアしていかなくてはならない課題は数多くあります。

2年間の議論

 同性婚の合法化議論はさかのぼること2年前から台湾で注目されていました。台湾の最高裁にあたる司法院大法官会議が2017年5月24日に同性婚を認めない現行民法は憲法違反だとして、2年以内に何らかの法整備をするよう立法院に求めました。それ以前に台湾では同性婚に準ずる扱いを公的に認めるパートナーシップ制度が2015年に実施されており、早期の同性婚合法化を求める声は予てより高まっていたのです。

 しかし、既存の結婚観を重要視する国民党支持者の多くが同性婚合法化に反発して議論は紛糾しました。台湾社会も国民党独裁時代の価値観を重要視する50代以上の国民をはじめ、憲法違反判決の日を「暗黒の日」と揶揄するキリスト教団体の反発が根強く、同性婚合法化を推し進めたい20代以下の若年層との対立が鮮明となりました。そのため2018年11月、後述するように同性婚反対派と賛成派の要望を踏まえて5項目を問う国民投票が実施されましたが、民法改正による同性婚合法化が反対されたため与党・民進党には大きなプレッシャーがかかりました。これに蔡英文総統率は住民投票の結果を踏まえて特例法による同性婚合法化にこぎつけたのです。同性婚の合法化を長年訴えてきたLGBTにとっては悲願が達成された格好ですが、国民投票の結果が反映されていないとして特別法案可決に反対する国民の反発も必至です。

 人権問題に敏感な欧米メディアやアムネスティインターナショナルを筆頭とする国際機関などは同性婚法可決を好意的に捉えている一方、台湾国内では反対派の不満が足元で抑制されている節があります。アジア初の同性婚合法化が実現しても国内世論の混乱は続いているのです。

国民選挙と改正を待ち望んだ人々

 同性婚の特別法案可決によって人権国家としての歩みを進めた台湾ですが、その裏ではアムネスティなどの人権団体が憂慮するような伝統的男女の結婚観が根強い社会風潮が残っています。2018年11月に実施された国民投票の5項目を振り返っても、台湾社会における同性婚への嫌悪感が払しょくされていないことが伺えるでしょう。

 そもそも国民投票がなぜ実施されたのか。キッカケは台湾のキリスト教団体が団結した「台湾宗教団体愛護家庭大連盟」(通称:護家盟)などが先行して民法に同性婚合法化の規定を盛り込まないこと狙い、護家盟が必要な署名集めて国民投票の実施を取り付けたことに始まります。護家盟が国民投票で是非を問うた項目は「民法が規定する婚姻が一男一女に限定されるか」「義務教育の段階でLGBT理解への教育を実施するべきでないか」「民法以外の法制度による同性婚合法化を認めるか」の3点で、国家の根幹を司る民法に是が非でも同性婚を容認する規定を盛り込まないよう訴えたのです。これに反発したLGBT支援団体「婚姻平権太平台」が民進党支持者と共闘して護家盟の対案となる「民法に同性婚を合法と定めること」「義務教育各段階でLGBTに関わる教育を盛り込むこと」の2点を国民投票で問うことにしました。

 同性婚に対して相反する意見に回答を迫られた台湾国民。その選択に世界中のLGBT団体が注視しただけでなく、欧米圏の各メディアも民法で同性婚が合法化されると期待を込めた報道を展開しました。ですが、結果は婚姻平権太平台などが持ち上げた2項目の提案が予想外の反対票の多さで成立せず、護家盟が提案した3項目のうち「民法が規定する婚姻が一男一女に限定されるか」、「民法以外の法制度による同性婚合法化を認めるか」の2点が600万票以上の賛成票を集めて成立しました。国民投票の規定上でも必要とされる全有権者のうち25%以上の票数も確保しており、欧米メディアやLGBT団体はこぞって人権の後退だと失意を伝えたのです。立法院が同性婚の特別法案を可決させる必要があったのは国民投票による正当な民意が示されたためで、裏を返せば依然として東アジアにおける同性婚への理解の低さを世界に示すことになったと言えるでしょう。

 台湾では他の東アジア諸国よりもLGBTの権利主張が認められているのは事実ですが、嫌悪感を持つ高齢者や手堅い保守基盤であるキリスト教など同性婚の合法化に難色を示す人々の影響力が大きいことも否定できません。特別法案を可決する形式で同性婚合法化が実現したとはいえ、社会全体で同性カップルの権利を守ろうとする意識には台湾国内でも温度差があるのです。

同性カップルの子ども問題

 特別法の可決によって同性婚合法化が実現しても立ちはだかる壁は反対派の訴えに由来するものだけではありません。民法上で合法と定められなかった以上、同性婚で不都合な事案が発生する度に立法院が特別法を可決させる必要があり、台湾の同性カップルに待ち構えている法的な問題はまだ解決されたわけではないのです。

 第一に大法院で可決された特例法上では、同性婚や同性カップルの間に生まれた子どもに関して片親との血縁関係が認められる場合のみ養子とできる規定となっています。当然、同性婚カップルの立場からすれば血縁関係がなくとも実子同等の権利が認められるべきと考えている当事者が多く、今後の法改正を睨んでも新たな特例法を可決する方法でしか課題解決できないと見られます。また、両親双方の血縁関係が認められない子どもを養子とする。本来の養子縁組が同性カップルでは認められておらず、人権的な観点からも同性婚への差別に値すると叫ばれています。立法院も同性婚を合法化させた以上は同性カップルの子ども問題に向き合わなければなりませんが、昨今の経済低迷で与党・民進党の支持率が低くなり相対して同性婚に反対する野党・国民党の党勢が上向いています。政権交代も現実味を帯びている事情を考えれば同性婚反対派の発言力が今後強まっても不思議ではありません。

 結婚したカップルが子どもを育てる権利は大いに尊重されるべきですが、台湾で可決された同性婚法では十分にその役割を果たせないのが現実です。2020年に実施される総統選挙と立法院選挙の結果によっては同性婚に関わる議論が後退する可能性もあるため、同性カップルの子どもに関わる規定の早期法案可決は期待できないかもしれません。

くすぶる同性婚への反発

 立法院で同性婚法案の議論の最中、国民党議員からは「同性婚」ではなく「同性家族」「同性結合」などの呼称が相応しいとする意見が噴出しています。こうした同性婚を否定する声も議会で過半数を占める民進党の数の力で抑え込んでいる節があり、仮に民進党が次の総統選挙と立法院選挙で敗北すれば同性婚議論の潮目も変わりかねません。

 また、民法で同性婚を合法化できない国民投票が成立したことが議論の進展にネックとなっており、同性カップルの子ども対策など長く放置するのは好ましくない課題も山積しています。歓喜に沸いたLGBTや支援者たちの思いを無下にしないためにも民進党としては党勢を維持したいのは山々でしょう。国民党やキリスト教団体との対話を進めていく上でも民進党が党勢を維持して次の選挙戦に勝利できるか。台湾における同性婚議論を加速させるためには民進党の躍進が不可欠なのです。