イギリスで支持率高まるブレグジット党とは?

 EUからの離脱合意をまとめられなかった二大政党への失望感から、イギリスでは新興政党・ブレグジット党が急激に支持率を上昇させています。2019年5月末に実施された欧州議会選挙でも結党して6週間しか経っていないにも関わらずイギリス第一党となり、大敗した保守党のテリーザ・メイ首相が辞任に追い込まれました。

まとまらないEU離脱合意

 わずかに賛成票が上回った2016年のEU離脱を問う国民投票の末、ブレグジットを進めることになったイギリス社会には大きな混乱が待ち構えていました。当初、EU離脱を強く推し進めていたはずの保守党が強硬派と穏健派に分かれて内部紛争を繰り広げただけでなく、是が非でもEU残留の可能性を模索したい最大野党・労働党の抵抗もあってイギリス議会の議論は停滞します。

 結果、2019年3月29日までのEU離脱期限に合意がまとまらず同年10月31日まで離脱期限が延長されることになり、国内でもアイルランド島内における関税に絡んだバックストップ問題についても議論が平行線をたどりました。加えて、穏健派の保守党議員がEU離脱に疑問を抱くようになり多くが労働党議員と足並みを合わせだし、二大政党の失望感は支持率という形でも如実に表れはじめます。外資の企業各社も関税への警戒感からヨーロッパ大陸へ生産拠点を移転させる方針を固め、次第にイギリス国内では二大政党への不満と失業への恐怖感が流布されました。こうした事情を汲んで、新党ブレグジット党を立ち上げたのが過去にイギリス独立党のトップを務めていたEU懐疑派の政治家、ナイジェル・ファラージ氏です。EU離脱を問う国民投票後のイギリス独立党内部の空気に失望して離党したファラージ氏は、欧州議会選挙が近づいた2019年年明けになると新党結党の準備を本格化させて4月12日にブレグジット党を正式に発足させました。

 二大政党の体たらくにガタ落ちする支持率を見てファラージ氏はEU離脱を容認する声を汲むため、新たな政党を立ち上げてブレグジットを実現させようと図ったといえるのです。事実、ブレグジット党は本格始動してわずか2カ月も経たないうちに欧州議会選挙でイギリス第一党となっている点からも、離脱派のイギリス国民がいかに二大政党を見限っているのかよく分かります。

躍進と政治資金問題

 EU離脱の協定内容を期限内に合意できなかった二大政党が支持率を落とすのと反比例して、多くの支持者を集めている大衆政党ブレグジット党。ただEU離脱を進めたいイギリス国民の民意を原動力にしているとはいえ、なぜ急激に党勢を広げて支持率1位を獲得するまでに至ったのか。支援者の姿を知ればうなずけるでしょう。

 はじめにファラージ氏個人の人脈からEU離脱派の資産家が出資の誘いに乗り、宣伝効果を伴う活動資金集めによってブレグジット党の支持率が上昇する基盤が築かれたといえます。例えばブレグジット党の結党にあたって、保守党支持者だったレジェミー・ホスキング氏などイギリス政界では有名な出資者がブレグジット党支持を表明しました。これは、一向に離脱協議を進展させない二大政党に多額の出資をする資本家に金融業界出身のファラージ氏自身が声をかけ、資金提供にこぎつけている点が大きく作用していると言われています。加えて、ブレグジット党は大衆政党らしく500ポンド以下の少額寄付金を募って効率よく労働者層から支援金を確保しています。従来の国政政党や欧州議会政党は資本家や労働組合をはじめ社会的に影響力が大きい組織献金を軸にしていましたが、結党間もないブレグジット党は一般市民でも出資できる額から支援金を受け付けたため、支持基盤と目される労働者層からの支持率を急激に上昇させたのです。

 しかし、現行のイギリス法では500ポンド以下でやり取りされた政治資金の出所について明記する必要がないため、イギリスの政治資金規制法で違反とされる海外送金が行われていないか疑いが持たれています。さらに、イギリス独立党時代からファラージ氏の支援者だったアーロン・F・A・バンクス氏が隠密に高額な支援策を施した疑惑も浮上しており、欧州議会選挙を目前としてイギリス国家犯罪対策庁が捜査に動き出しています。しかしながら、後述する通りブレグジット党が支持率1位を維持して欧州議会選挙でも第1党となっており、仮に刑事訴訟問題にブレグジット党が巻き込まれるとなればイギリス政界は政策とは別の側面で混乱に陥ることになりかねません。大衆が持つ二大政党への不満を吸収して勢いづいたブレグジット党ですが、政治資金などの運営面では大きな爆弾を抱えているのです。

 当然、支持率トップを走る政党がイギリス国家犯罪対策庁から捜査を受けている現状を不安視する声も挙がっています。一方で少額の政治資金から支援できる稀有な政党としてブレグジット党の存在感は労働者層を中心に増しており、大衆からの期待を背負っている事実も否定できません。

イギリスにおける欧州議会選挙の結果

 政治資金面で警察機関から捜査を受けながらも選挙日まで支持率1位をキープしたブレグジット党は、欧州議会からイギリスに振り分けられた73議席のうち29議席を確保してイギリス第1党となりました。対して二大政党のうち最大野党・労働党は10議席を獲得して第3党の座に滑り込んだものの、与党・労働党は前回から15議席減らして4議席に留まる大敗を喫しました。

 二大政党の敗北を呼んだのは何もブレグジット党が躍進したという理由だけではありません。停滞する二大政党やブレグジット党に嫌悪感を持つ親EU派の有権者は古参政党ながらも影を薄くしていた自由民主党に投票。1議席しか持たなかった自由民主党は16議席にまで勢力を伸ばして第2党にのし上がりました。国会運営を停滞させた二大政党は支持率低下と併せて苦水を飲むことになったのです。さらに、欧州議会選挙全体の潮流に乗って環境主義政党である緑の党も議席を倍増させ、与党・保守党よりも多い議席を確保しました。一方でイギリス全体の投票率は37%に留まり、有権者の投票行動そのものがEU離脱に迷走する政界への抗議の意思が示されている節があると多くのメディアが分析しています。

 下馬評では支持率で大きくリードしたブレグジット党に注目が集まっていましたが、親EU派の受け皿として自由民主党や緑の党などの中小規模政党も支持率を上昇させたのは停滞するイギリスへの不満。ひいては、社会を混乱に陥れた保守党と労働党への信用が低下した現れともいえるでしょう。

ブレグジット党の不安要素

 ブレグジット党が党勢を拡大させた要因の一つには、党首ファラージ氏が忖度なく目を背けたい問題に切り込む発言を繰り返して人心を掴んでいる点も挙げられます。ただ、語気の強い発言口調から極右的な考えを持つ人々もブレグジット党の支持についており、党内でも会計役だったマイケル・マックゴーン氏による反ユダヤ的なSNS投稿が問題視され、マックゴーン氏は職を外されています。

 高い支持率を背景に欧州議会選挙でイギリス第1党となったブレグジット党ですが、その内部は政治資金問題だけでなく極右思想に基づいた差別主義が渦巻いているとのイメージも浸透しつつあるのです。しかし、どのような手段を採っても2019年10月31日に延期された期限までには必ずEU離脱を実現させると豪語する政党はブレグジット党を置いて他になく、景気低迷に嘆く市井の人々の声を大いに吸収しています。対して自由民主党などに投票した親EU派の国民は警戒感を募らせており、ハロウィンに設定された離脱期限に近づけば双方の意見対立が激化するのは必至です。