コンゴ民主共和国で流行するエボラ出血熱とブッシュミートの関係

 アフリカ中部に位置するコンゴ民主共和国で致死性の高いエボラ出血熱が大流行しています。東隣のウガンダにも死者が発生する事態に、WHO(世界保健機関)は2019年6月末時点で公衆衛生上の緊急事態宣言を発令はしていないものの予断を許さない状況が続いており、死者数はコンゴ民主共和国だけでも1,400人以上を超えています。

史上最大規模に迫る大流行

 発端は2018年5月、コンゴ民主共和国北西部の赤道州ビコロ地区にて初の感染者が確認されたことに始まります。同年7月に一旦は鎮静化しましたが、8月に入ると流行が急拡大してコンゴ民主共和国政府は非常事態宣言を発令しています。コンゴ民主共和国政府としては2014年から2016年までアフリカ西海岸で発生した史上最悪のエボラ出血熱流行の記憶からエボラ出血熱への警戒感が強まっており、ウガンダなどの近隣諸国も同様に危機感が共有されました。

 事態発生を受けて、WHOや国際医療支援団もすぐに現地入りして事態の対処に当たろうと試みています。しかし、世界有数の治安の悪い国として有名なコンゴ民主共和国での医療活動は困難を極めています。コンゴ民主共和国では政府権力が及ばない地域で武装勢力による殺人やレイプが横行しており、そもそも医療環境の整備すらままならない地方も少なくありません。エボラ出血熱はアフリカ原産の感染症という知識を学校で学んでないためエボラウイルスを白人が持ち込んだ細菌と考える人々も多く、国境なき医師団が設置したウガンダ国境沿いにある北キヴ州のエボラ出血熱対策施設も襲撃を受けていますアメリカの疾患対策センターもコンゴ民主共和国へエボラ対策チームを派遣しましたが、現地武装勢力との衝突が激しいことを理由に戦闘がひどい北キヴ州での支援から撤退しました。これら事情から窺えるように、コンゴ民主共和国におけるエボラ出血熱対策は治安問題も絡んで非常に困難な状況なのです。

 分かっていた話とはいえ、WHOも国連PKO部隊を常駐させながら現地支援を継続している苦しい状況が続いています。そうしている間にもエボラ出血熱は隣国ウガンダでも死者が発生するまでに流行しており、WHOも他の周辺国への完成拡大を防ぐには更なる追加支援が必要だと国際社会へ訴えています。

追記(2019/7/18)

 コンゴ民主共和国からウガンダにもエボラ出血熱の流行が伝播している現状を踏まえて、WHOがついに公衆衛生上の緊急事態宣言を発令しました。しかしながら、依然として現地の医療環境が万全に整備されているわけではないので感染が今後も拡大する恐れがあります。

※時事通信社「コンゴのエボラ流行で緊急事態宣言=WHO、死者1600人超に

エボラ出血熱とは?

 発生源のコンゴ民主共和国だけでなく隣国ウガンダにも伝染して感染者拡大が止まらないエボラ出血熱。一連の流行ですでに1,400人が死亡しており国際社会も手を打とうとしていますが、現地の治安情勢の悪さ。特にウガンダ国境と隣接する北キヴ州では散発する戦闘から満足な治療体制が築けず、コンゴ民主共和国とウガンダに近いルワンダやブルンジでもエボラ出血熱患者が発生するのではと不安視されています。しかし、つい数年前に大流行したエボラ出血熱がなぜ再びコンゴで流行しているのでしょう。

 その理由は現地住民に浸透している食文化が深く関わっています。エボラ出血熱は大きさ80~800㎚(1㎚=10-9m)のエボラウイルスが体内に侵入して高熱を促し、鼻や口などから大量出血させて死に至らしめるWHOが最も危険視している感染病の1つですが、人間が体内に持ち合わせないウイルスなので外的要因がなければまず感染しませんしかし、コンゴ民主共和国をはじめ狩りで食事を手に入れる部族はエボラウイルスを宿しているコウモリや猿を狩って食用肉。ブッシュミートとしており、現地の食文化として定着していることも相まって感染源を予防することができていません。むしろ、コンゴ民主共和国では社交場のおつまみとして猿肉などのブッシュミートが食される機会も珍しくなく、猿肉を食べなければ礼儀の知らない奴だと冷ややかに見られることすらあります。

 こうしたコンゴ民主共和国に限らず、アフリカには狩猟によって確保したブッシュミートを十分な殺菌処理を行わずに食べる文化が一般常識なので、普段の食事からエボラウイルスに感染するリスクを抱えています。2018年5月に感染が確認されたコンゴ民主共和国赤道州はコウモリ狩猟が盛んな地域でもあり、感染者もコウモリ肉を普段から食べていたようです。現在の医学でもエボラ出血熱に対する明確な治療法は確立されておらず、点滴治療で生存率を上げるなどの治療しかできません。そしてウイルスが侵入してエボラ出血熱が一度発症すると、患者の血液や嘔吐物に触れただけで感染するためアフリカ諸国も対応に苦慮しています。ブッシュミートさえ口にしなければ確実にエボラウイルスの感染源を絶つことができる話ですが、後述する通りにアフリカ諸国のインフラ発展と並行して密猟環境も整備されてブッシュミート流通網が確立しつつあります。

 エボラ出血熱の感染源となるブッシュミートが容易に食べられる環境がコンゴ民主共和国だけでなく、アフリカ全般に広まっていることはエボラウイルスの感染源を根絶できない動向として危険視されています。すでに2014年のエボラ出血熱大流行の発生国家となったアフリカ西海岸諸国ではブッシュミートの取引・狩猟を禁止しましたが、地下市場に潜って平然と取引されており有効な解決策となっていません。

ブッシュミートがエボラ出血熱を広げる

 コンゴ民主共和国内でも赤道州と北キヴ州は隣接しない州です。しかし、ウガンダ国境という交通の要所ながらも治安が悪い北キヴ州という土地柄事情を踏まえると、コウモリ猟で狩られたコウモリ肉が北キヴ州や隣り合うウガンダで消費されても不思議ではありません。ウガンダ国内ではコンゴ民主共和国産のブッシュミート販売網が確立していると考えてよいでしょう。

 過去の流行を振り返っても、コンゴ民主共和国産ブッシュミートが原因となりエボラ出血熱がウガンダで流行した事例が見られます。2012年にウガンダでエボラ出血熱が流行した際にも真っ先に感染源として問題視されたのがブッシュミートでした。WHOなどがエボラ出血熱と似た感染源で危険な感染病とされるマールブルグ病が流行したのと相まって指摘したことで、ウガンダ保険省も対応に四苦八苦していました。また、2014年にアフリカ西海岸諸国で発生した史上最悪のエボラ出血熱大流行もブッシュミートが都市圏に広がったことが大きな要因として指摘されています。しかし、売れば儲かる商売としてブッシュミートビジネスはコンゴ民主共和国やアフリカ西海岸で定着しており、国が本腰を入れても密猟を根絶。もとい、エボラウイルスの感染源根絶が実現できていません。

 昨年からコンゴ民主共和国で発生しているエボラ出血熱流行のキッカケを踏まえても、仮に政府がブッシュミートを大々的に取り締まる権力があれば未然に防げたはずです。しかし、広大かつ貧困が蔓延するアフリカ諸国にとって密猟の取り締まりは容易ではありませんし、ブッシュミートの危険性を十分理解していない地域住民による闇ビジネスの取り締まりは不可能と言ってもよいでしょう。

困難な感染源根絶

 今回のエボラ出血熱流行はコンゴ民主共和国政府による非常事態宣言は発令されていますが、WHOによる非常事態宣言が発令されていません。これはアフリカ西海岸で発生した前回の大流行と比較してコンゴ民主共和国内のみで流行が収まっているためで、隣国ウガンダにも感染が広がっている状況からもWHOはこれ以上事態を悪化させたくないと考ええているのでしょう。

 ただ、エボラウイルス感染源のブッシュミートをアフリカ連合など地域の国際機関が本腰を入れて取り締まらなければ、同じようなエボラ出血熱流行は根本的に防ぐことは叶いません。また、土着文化としてのブッシュミートがアフリカ全体の開発ラッシュで流通網が築かれ、急速に共有される食文化として発展している点も大きな課題です。治療検査の面からもエボラ出血熱の診断は難しく特効薬も治験段階なので完治することもままなりません。土着文化であるブッシュミートを禁止して取り締まれない。それが、アフリカで幾度となくエボラ出血熱が流行する真の原因なのです。