米中貿易摩擦によって変化する日本と中国の関係

 大阪で開催されたG20会議にて世界の経済大国が二国間会談を済ませるなか、日本と中国との首脳会談も2019年6月27日の夜に実施され、中国の習近平国家主席が来春に再び出迎えられるよう準備すると日本の安倍晋三首相から発言がありました。ですが、米中貿易摩擦という外的要因によって発生した日中関係の改善を好意的に受け止めてよいのか。中国の海洋進出や香港の民主化問題など妥協できない点も含めて考えなければなりません。

大阪G20日中首脳会談での発言

 近接する経済大国である中国と日本は常に商売敵としてにらみ合ってきただけでなく、尖閣諸島をはじめとする安保問題などで対立を深めてきました。ただ、米中貿易戦争やファーウェイ問題が引き金となり双方関係を見直そうと交渉を加速させたいのが本音です。

 こうした一物を抱えながら2019年6月27日夜に実施された日中首脳会談では早急な外交関係の改善を目指す意味を込めて、安倍首相が習主席を来年春に日本に招いて日中首脳会談を実施することを提案。習主席も「よいアイデア」として日程を合わせる旨を発表しました。また、安保問題で揉めていた海洋問題については既に事務方でまとまった通り「平和・協力・友好」の海とすることを目標として確認し、日中海上捜索救助協定など協力関係を強化するとしました。経済関係でも知的財産保護や両国企業のビジネスに不公平が生じないよう貿易環境を築いていくと合意しました。米中貿易摩擦による経済事情の変化によるものが大きいとはいえ、いがみ合っていた日中関係の改善に向けて動きだしたことを印象付ける合意が立て続けに発表されたのです。

 しかしながら、中国共産党が締め付ける香港の逃亡犯条例反対デモについて日本からは「一国二制度に基づいた香港の繁栄を願う」と指摘されています。折しも大阪の繁華街・難波では香港から来日した学生がG20開催のタイミングを見計らってデモを実施していましたが、中国政府は「内政問題のため国際会議の場で議論する話ではない」と日本側の意見を弾き返す立場を崩していません。ただ、緊張感が高まってきた北朝鮮情勢については国連で禁じられている違法な物資資源の瀬取りを摘発に動き出す点で合意。連携して北朝鮮に非核化を働きかけることなど、日中関係の改善を双方ともにアピールする格好で首脳会談は終了しました。

 相手国への憎悪感情は払しょくされてはいませんが、共通する米中貿易摩擦の解決や北朝鮮問題に歩調を合わせる確認が出来たのは日中関係改善を目指す上でも大切な要素と言えるでしょう。逆に言えば、一部市民が嫌悪していた日本との関係を改善してまで中国は経済的なダメージを与えたくないと考えており、その布石として日本との関係を密にしたい狙いもあります。

米中貿易摩擦

 中国が経済大国へのし上がっていく過程で、アメリカとの同盟関係を重要視する日本政府に中国共産党は常に安保上の脅威だと警戒してきました。また日本国内の世論も尖閣諸島における中国船籍が通過するといった国益が絡む問題が発生する度、中国への制裁論が持ち上がるなど反発の声が挙がってきました。

 しかし、アメリカのドナルド・トランプ大統領の保護主義経済の動乱によって状況は大きく変化します。それまで世界は自由貿易による国際市場体制で均衡を保っていましたが、トランプ政権はアメリカ国外の外資企業に生産拠点の見直しを強要したのです。特にトランプ大統領はアメリカとの貿易不均衡を是正しない中国政府を目の敵として、中国からの輸入品に高額関税を設ける貿易戦争を勃発させました。対する中国も国際市場の均衡を歪める措置としてアメリカ側と同等の関税率引き上げを実施するだけでなく、規制対象のアメリカ企業リストを作成する制度を導入するなどトランプ政権の方針に真っ向から戦っています。

 米中貿易摩擦における次世代通信技術5Gの覇権争いも世界から大いに注目を集めています。中国の通信機器大手ファーウェイが持つ5G技術は世界最先端と言われ、EU諸国はファーウェイの通信インフラ規格を標準化しようと検討に入っています。一方、ファーウェイ製品にはバックドア(※1)という不正なプログラム書き換えが可能なシステムが密かに設けられ、幾度となく問題として挙げられてきました。アメリカ政府はファーウェイ機器から中国当局へ個人情報が流出した末、アメリカ企業の不利益となるビッグデータが蓄積されないか不安感に駆られています。こうした国益に関係する懸念から、トランプ政権はファーウェイの孟晩舟副会長の逮捕をカナダ政府に要請するなど中国政府に圧力をかける外交策を採っているのです。

 そうとは言っても米中両国が与えている世界経済の混乱は大きいため、G20で実施された米中首脳会談で協議された結果。アメリカ側はファーウェイ製品を含む中国製品の規制策緩和に向けた動きを中国政府と検討していく方針を発表しました。孟氏の帰国は実現していないものの、緊張緩和を目標とした歩みを進めていく方向性を見出そうとしていると言えるでしょう。

1:バックドア
 正規手続きを介さず不正にプログラムを書き換えることができる通信機能。プログラムの開発設計段階で情報を盗むことを意図して付加されるケースが多い機能で、国家間のスパイ戦略において軍事転用も可能な通信技術でもある。従来の通信規格では容易に発見して防げる機能だったが、大量の情報をやり取りできる5G技術では小規模なバックドア不正通信を探知して防ぐことが困難とされている。

日本という仲介国家

 トランプ大統領による貿易不均衡の訴えから勃発した貿易戦争によって、中国は重要企業であるファーウェイの首が締め上げられることに強い嫌悪感を抱いています。大阪G20会議で実施された首脳会談で幾分アメリカとの関係が好転する兆しが見えたとはいえ、貿易や通信インフラ関係の問題が打破されたわけではありません。

 こうした事情から、中国は敵対陣営に距離が近く間を取り持てる日本に仲介役としての役割を期待しています。日本としても北朝鮮の拉致被害者問題や核開発問題の解決に向けた協力関係を密としたいため、外的要因であったとはいえ中国との関係改善に向けた交渉に臨めたのは収穫でしょう。しかし、このところの日本の外交政策は悪手ばかり踏んでいます。アメリカからの強引な兵器ビジネスに屈し、ロシアとの北方領土返還交渉は明らかに後退し、低利子で開発途上国向けODA(※2)開発を繰り返して面子を保つのが精一杯です。こうした国際的な存在感が薄くなる日本を中国は対米関係改善への潤滑剤と見なす一方、いざという時は日本を放置してアメリカや韓国との外交に臨んでもよいという本音を抱えていても不思議ではありません。

 もちろん、東アジア情勢の均衡を考えれば良好な日中関係を築くことは大切ですし、貿易上のつながりからも中国が日本を軽視することはあり得ません。ただ、日本政府が国際関係において後退する動きが今後続くようなら、中国が日本に外交攻勢を仕掛けてアメリカを揺さぶることも十二分に考えられるのです。

2:ODA
 Official Development Assistance(政府開発援助)の略。資本技術力を持つ国家が開発途上国に向けに借款(国の貸付金)を発行して現地のインフラ開発に取り組む。日本は安倍政権が発足してから低金利の円借款開発または無償援助開発を積極的に開発途上国で実施しているが、返済が間に合わないミャンマーでのODA事業円借款を帳消しにするなど国内で批判の声が挙がっている。

中国にとって日本は保険?

 北朝鮮を念頭においた海洋警備の連携など東アジア情勢を踏まえて協調する姿勢を示した日本と中国ですが、仮に米中貿易摩擦が発生しなかったら海洋警備の協力体制など締結されなかったはず。こと中国は国際地位が低下しはじめている日本との関係を強固として北朝鮮やアメリカをけん制する狙いもあります。

 日本としては民主的な政治体制が築かれていない中国政府が弾圧している香港のデモ運動に耳を傾け、一国二制度の前提を尊重した自治体制に干渉してはいけないと諭すなど。国際社会の歩調に合わせた指摘をするシーンが目立ち、肝心の北朝鮮問題も解決に向けて協力する約束をしましたが実際にどれだけ事態が動くのか不透明さが残っています。日本はホスト国としての体は保ちましたが、大阪G20全体を俯瞰しても中国だけでなく他の諸外国からも軽視されるような状況に陥っているのは否定できません。そして中国にとっては予断を許さない米中貿易摩擦の保険として日本に近づけたわけで、今回の日中首脳会談は中国側に利する要素が大きかったことは紛れもない事実です。