ホワイト国除外騒動で揺れる日本と韓国の絆

 貿易輸出上の優遇措置を受けるホワイト国から互いを除外する措置を日韓両国が発表して東アジアに動揺が走っています。韓国側の慰安婦・徴用工訴訟問題を発端とし、日本側が半導体素材の輸出規制を実施したことで、両国では互いの嫌悪意識を間接的に政府が広めようとしています。それでも、民間レベルで日韓交流を継続しようとする機運が完全に失せたわけではありません。

ホワイト国除外と韓国の反応

 事の発端は慰安婦問題や徴用工訴訟で韓国の高齢者が次々に民事訴訟を起こしたことです。韓国の年金制度では生活が厳しい元慰安婦や元徴用工が2009年の日韓請求権協定で解決されたとする賠償問題を再燃させ、相次ぐ民事裁判に耐えかねた日本政府が韓国向け半導体部品の輸出規制へ踏み切り日韓関係は冷え込みました。

 半導体産業を経済の柱とする韓国にとって日本側の輸出規制措置は大きな打撃を与えかねず、文在寅(ムン・ジェイン)大統領も国難として全世界に韓国の非常事態を訴えるべきとする趣旨の発言をしました。対して、日本政府は韓国側が過剰に嫌日意識を流布しようとする姿勢に反発。予てからホワイト国でありながらも輸出管理の不備が多かったこと、韓国がホワイト国扱いとなったのが2004年と比較的期間が短いこと、北朝鮮に輸出品が不正に横流しされるリスクなどを理由として2019年8月7日。韓国をホワイト国から除外する政令を公布、同月28日に施行する方針を示しました。同時に輸出入を所管する日本の経済産業省はホワイト国をグループAとする新たな輸出優遇基準を設け、非ホワイト国をグループB~Dとして韓国をグループBにカテゴライズしました。詳細は後述しますが、同じ非ホワイト国に分類された北朝鮮やイラクがグループDに分類されている点を踏まえれば他国よりも優遇されている立場であるため、日本政府としても国内経済に嵐を呼びかねない動きを自制しつつ韓国側へ事態収拾を促す姿勢を示した格好です。

 しかし、韓国は譲歩の余地を残している日本政府の判断を図ることなく厳格に事態へ対応しました。ホワイト国扱いを除外されたことを念頭に、韓国の文政権は同じく輸出管理基準をグループA~Cに分割させて日本をホワイト国に該当するグループAからCへ2段階引き下げました。北朝鮮やイラクが日本の基準よりも上位のグループBにカテゴライズされている点を踏まえても、日本側の敵対心を煽る態度を誇示したのです。加えて、韓国内でもホワイト国除外の判断を下した安倍政権に反発する声が挙がりはじめています。ソウル市内では日本国民ではなく、韓国に国難を与えている安倍政権の辞任を訴えるデモが数千人規模で実施されました。ただ、ソウル市中心街にあたる中区の徐良鎬(ソ・ヤンホ)区長が音頭を取って「Boycott Japan」の旗を区域に掲げ、ネット上で批判が相次ぎ即時撤去される事案が発生するなど、文大統領と同じ共に民主党に所属するソウル市各区長が積極的な嫌日意識を煽る動きに疑問を抱く韓国世論も盛り上がりつつあります。

 日韓両政界がホワイト国指定の処遇を巡り煽り合う一方、双方とも国民からある程度の理解を得ながらも応酬の連鎖にしらけた空気も漂いつつあります。そして、ホワイト国から除外されて輸出が厳しくなると騒がれた半導体部品の1つ・レジストについて、韓国政府は2019年8月8日にサムスン電子が申請した輸出許可が下りたことを発表しています。冷静に考えれば、両国の企業各社が相手政府の許可を取れば輸出入の問題は発生しないのです。

ホワイト国とは?

 そもそも、メディアが仕切りに取り上げるホワイト国制度とはキャッチオール規制のことを指します。二国間貿易では、軍事転用される可能性がある品目の国際的な取扱い規定。国際輸出管理レジームに則って一定の手順を踏まなければ輸出できない規制を設けるのが普通です。それを貿易関係上、重要な国家との輸出管理を円滑とするため設けられるお墨付きがホワイト国認定なのです。

 日本政府が韓国をホワイト国から除外した言い分としても、国連が韓国に北朝鮮への違法な物品横流しを実施している疑いがあるとした発表から判断を下した節があります。2018年末に日本海上で発生した韓国軍艦船による自衛隊哨戒機へのレーザー照射事件も遠因として北朝鮮への物品横流しが絡んでいる可能性あり、これを理由として日本政府としても次々と湧き上がる賠償裁判の口封じを狙いたい思惑があるのは否定できないでしょう。対して韓国政府は人権問題である慰安婦・徴用工訴訟と経済分野はすみ分けて考える問題としており、双方を絡めたホワイト国の除外判断は不当だとしてWTO(国際貿易機関)への訴訟も含め国際社会に力強く訴えていく姿勢を誇示しています。

 ですが、前項でホワイト国から除外されても必要な事務処理等を済ませれば企業団体ごとに輸出許可が下りるため、両国政府やメディア各社が騒ぎ立てているほど一大事ではないとの意見も散見されます。上記に両国のホワイト国と非ホワイト国のカテゴリー分けを表記しましたが、日本は韓国をホワイト国とされるグループAから外したとはいえ、バルト3国と同じグループBに分類しています。中国や台湾など優遇措置を受けないその他多くの国々がグループCにカテゴライズされているだけでなく、兵器転用される可能性が高いとみられる北朝鮮やイラクなどがグループDに分類されている点を踏まえれば、ホワイト国指定が解除されたとはいえ韓国が依然として優位な立場であることが理解できるでしょう。しかし、韓国はグループAとBでしか分類していなかったホワイト国の輸出管理基準にグループCを新設。ホワイト国だった日本だけをグループCへカテゴライズする判断を韓国政府は下しています。ただ貿易上、どのような規制を設けるかは一切決まっていないので文政権の誇大なパフォーマンスとして捉える向きもあります。

 日韓の財界関係者としても政界の意地の張り合いで輸出環境が揺さぶられる現状を快く思っていませんが、何よりメディアが騒ぎ立てるほど二国間貿易に障害が発生しないと輸出管理の現場関係者が考えているのが実情です。それより危惧されるのは、ホワイト国除外によって歪が生じている双方の国民感情の変化でしょう。

民間交流事業への影響

 ホワイト国騒動による影響は夏休みを使って日韓交流を図ろうとしていた民間団体へ多大な打撃を与えています。2019年8月2日までに毎日新聞がまとめた情報では21道県35件の交流事業が中止に追い込まれており、国民レベルで対立してないにも関わらず政治的要因で貴重な交流機会が消失しています。

 それでも、兵庫県神戸市と京畿道富川市に拠点を構えるNPOが交流会を実施しており、民間レベルでいがみ合っていないとアピールしています。共に様々な国にアイデンティティを持つメンバーが多いNPO「神戸市定住外国人支援センター」と「アジア人権文化連帯」は神戸市長田区にてイベントを開催。双方の団体とも日韓の政治状況悪化に一抹の不安を語りつつも代表者が「両グループとも国籍の垣根を越えた共生を目指しているのに、日韓関係の悪化を理由に中止するにはいかなかった」とのコメントを残しており、互いの交流による理解が大切だと訴えています。また、イベントに参加した大学生もニュースの情報を鵜吞みにするべきでないと交流を通じて痛感したと語っていますし、日韓交流イベントが相次いで中止されるご時世においていかに他国民と接する機会が大事か分かる話ともいえます。

 特殊なアイデンティティを抱えた人々が主催したイベントとはいえ、異なる文化や価値観を理解する機会を奪うような日韓交流イベントの中断は避けられるべきです。日韓両政府がホワイト国の処遇を巡る対立を深めている今だからこそ、政治に翻弄される両国民が対立していない既成事実を築き上げないといけません。

両国官邸が招く愚の対立

 表面上は輸出に関わる両国の産業界に大打撃が押し寄せてくると考えてしまいがちな日韓両政府のホワイト国指定の除外ですが、実際に大きな影響を受けているのは政治やメディアの嫌悪情報に踊らされている両国民に他なりません。そもそも、互いの政府が敵視する行為を止めれば国家間のにらみ合いなど発生し得ないのです。

 そして両国の政界に目を向けると、日本では嫌韓意識を醸成しようとする安倍政権へ非難する声が日々増長を続けていますし、韓国でも経済が減速する状況を抗日政策で挽回しようと躍起になる文政権に冷たい視線が向けられています。大方、ホワイト国除外による嫌悪意識の広まりは国民からの支持を得たい。両国政権の褒められない事情が遠因となっている事実は否定できないでしょう。相互理解の大切さを疎かとする政治動向を踏まえれば、両国各地で次々と中止が決まっている交流会イベントを再開させる重要性を理解できると思います。