ボルソナロ大統領のアマゾン火災放置で環境崩壊叫ばれるブラジル

 各国主要メディアが「地球の肺」が燃やされているとして、ブラジルのアマゾン熱帯雨林で激増する森林火災を憂慮しています。しかしながら、ブラジルのジャイル・ボルソナロ大統領は満足な消火活動を実施しないため、環境主義者たちによるデモが広がっているだけでなく、フランスなどのEU諸国は対伯貿易制裁の検討に入っています。

トロピカルトランプによる土地開発推進

ジャイル・ボルソナロ

ジャイル・ボルソナロ大統領
※Wikipediaより

 自国第一主義を掲げるボルソナロ大統領は過去にも世間を騒がせる言動を繰り返してきました。黒人差別や麻薬使用を擁護する発言だけでなく、ブラジル社会の根強い問題である強姦犯罪を容認する姿勢を示すなど、ブラジル国民からは差別主義者だとして大統領選でも彼への反発が止むことはありませんでした。

 しかし、長く続いた労働者党政権によってブラジル政界は汚職にまみれただけでなく、農産物や鉱物資源の世界的な値下がりで国内経済が減速したことから労働者党の支持離れが加速。粗暴な発言が目立つボルソナロ氏がトロピカルトランプと揶揄されながらも大統領職に就いたのです。間もなく、ボルソナロ大統領は環境NGO団体向けの政府補助金を削減する一方で、アマゾンの農作地拡大を推進する政策を次々に実施しました。結果、ブラジル国立宇宙研究所の人工衛星データからアマゾンの森林火災発生件数が前年同時期比85%増えたことが明らかとなり、意図的に農作地開発を念頭に置いた森林放火が激増している事実を露呈させました。2019年8月19日にはアマゾン火災の黒煙によってブラジルの最大都市サンパウロが市域全域で視界不良に見舞われるなど、国民生活にも多大な影響を与えています。しかし、ボルソナロ大統領は「環境NGO団体が政府補助金を削減した腹いせにアマゾンに放火している」と事実無根の発言をして国内外から大きな批判を浴びました。

 自身に泥を塗られたと感じてか、ボルソナロ大統領はアマゾン火災批判を扇動したとしてブラジル国立宇宙研究所のリカルド・カルヴァン所長も解任しています。ですが、ボルソナロ大統領が進める農作地拡大策によって農場経営者がアマゾン森林を燃やしているのは明白で、ボルソナロ大統領の支持率も急落しています。

フランスの善意を逆なで

 世界最大の森林地帯であるアマゾンの大規模火災に国際社会も敏感に反応しています。特にサンパウロが黒煙に包まれた後、フランスのエマニュエル・マクロン大統領は「私たちの家が燃えている。言葉の通り、これは国際的危機だ。」とTwitter上で発信して、来るビアリッツG7サミットで議題とする旨を発表しました。

 ほどなく8月26日にビアリッツサミットが閉幕すると、7G各国はアマゾン火災の消火対策費として2,200万USドル(約23億円)の支援金を充てることを決定します。しかし、ボルソナロ大統領は「当事国が参加しないG7の場で協議するフランス大統領の対案は、誤った植民地主義的な思考を連想させる」として強く非難し、G7からのアマゾン消火対策費を受け取らないとする声明を発表しました。加えて、ボルソナロ大統領は「自国の世界遺産であるノートルダム大聖堂ですら防災出来ないのに、我が国に消火方法を教えたいだって?」とマクロン大統領を挑発。ネット上でも、ボルソナロ大統領の支持者がマクロン大統領夫人のブリジット氏を罵倒するコメントをボルソナロ大統領のFacebookに投稿し、マクロン大統領が「みっともなく無礼な行為」と非難する事案も発生しました。ですが現実問題、アマゾンで広がり続ける火災はすでにブラジル政府だけでは対応しきれない規模に広がっており、有効な打開策を打ち出そうとしないボルソナロ大統領の姿勢に不信感を募らせるブラジル国民は増えています。

 対して、ボルソナロ大統領を熱心に支持するブラジル右派の国民の多くは「アマゾンに埋まっている資源を他国の干渉で奪われかねない」と警戒心を強めているのも事実で、世界最大の森林地帯が燃えようともボルソナロ大統領を揺ぎなく支持するブラジル国民も一定数います。マクロン大統領からの消火支援を拒否するボルソナロ大統領の脳内には、国益を重要視する農場経営者や鉱山労働者の姿が常にあるのです。

支援の広がりと貿易協定破棄の危機

 ブラジル国内の資源と農作物を守るためにアマゾンが燃えている状況を放置しているボルソナロ大統領ですが、州域全体がアマゾン熱帯雨林となっているアマゾナス州政府は市民生活に支障をきたしているとして非常事態宣言を発令しています。無論、こうした被害に反応してブラジル政府の強引なアマゾン開拓に声を挙げる運動が世界各地で広がっています。

 ボルソナロ大統領に野焼き犯扱いをされているブラジル国内の環境NGO団体は結託して、Twitter上で「#prayforAmazonas」のタグを拡散して世界中にアマゾン火災への支援を呼びかけるだけでなく、環境破壊を顧みないボルソナロ大統領を厳しく糾弾しています。著名人も「#prayforAmazonas」キャンペーンに呼応しており、ハリウッド俳優のレオナルド・ディカプリオ氏は、実業家のローレン・P・ジョブス氏や投資家のブライアン・シェス氏と共に立ち上げた間もない環境保護団体を経由して、アマゾン消火対策費500万USドル(約5億3,000万円)を寄付すると発表しました。この寄付支援は一般の人でも所定のサイトから参加することができ、各国著名人も同じように支援金を現地ブラジルの環境NGOへ送金しています。

 ボルソナロ大統領の支持者から罵倒されたマクロン大統領も報復措置の検討に入りました。フランスはアイルランドと共同でブラジルを含む南米4ヵ国間の関税同盟、メルコスールと暫定合意された自由貿易協定の破棄をちらつかせています。また、2019年7月からEU議長国を務めるフィンランドもブラジル産牛肉の輸入禁止をEU加盟各国に提起しており、フィンランド政府は「9月にヘルシンキで開かれるEU財務相会議までに進展がなければ、自由貿易協定の破棄を提案する」と警鐘を鳴らしています。最も、メルコスール加盟4ヵ国とEU間で2019年6月末に暫定合意されたばかりの自由貿易協定は、足掛け20年もの時間を費やして策定された双方にとって重要な貿易協定のため、このままアマゾン火災が放置される状況が続けばメルスコール加盟国であるアルゼンチン、パラグアイ、ウルグアイにも経済的打撃を与えかねません。ボルソナロ大統領の自国第一主義が、合意点を探り合って結ばれた国際協定を破壊しようとしています。

 市民から主権国家までが危惧しているアマゾン火災に満足な対策を取らなければ、ブラジル経済は外交対立という不安感が影響を与えて大幅に悪化しかねません。それだけでなく、メルスコール加盟国にも甚大な不況を誘発しかねないボルソナロ大統領の言動にブラジル国民の怒りは募るばかりです。

禁止令出されても…

 経済性のみを追求するボルソナロ大統領も、環境問題が経済貿易問題へ飛び火すれば態度を改めざるを得ない部分も出てくるはずです。事実、国際社会から非難の声が殺到したため、ブラジル政府は8月29日に野焼き禁止令を出しています。しかしボルソナロ大統領は「教えることは何もない」とコメントを残し、アマゾンの土地開発を続行させる姿勢を崩していません。

 アマゾンの乾季は9月頃までと言われていますが、ブラジル政府だけで事態を打開できないほど森林火災が広がっているため乾季を超えてもアマゾンは燃え続けるでしょう。フランス政府などの国家間支援を拒否している実情を踏まえれば、民間の寄付や消火活動に依存せざるを得ない面も多々出てくるはずです。しかし、ボルソナロ大統領と彼を支持する農場経営者たちの無茶な土地開発を止めなければ被害がさらに広がるのは目に見えています。彼らの儲けに偏った行動を阻止するためには、やはり自由貿易協定の破棄など経済的な外交カードで揺さぶりをかけるしかないのでしょう。