南アフリカの外国人襲撃から逃れるナイジェリア人

 南アフリカで増加する外国人を標的とする襲撃から逃れるため、多くの南アフリカ在住ナイジェリア人が母国へ帰国しています。南アフリカでは国民が隣国から来る貧しい移民を忌み嫌って殺害する事件が多発しており、事態を憂慮したナイジェリア政府が抗議の意思を示すため世界経済フォーラム(WEF)から脱退する国際問題にも発展しています。

ナショナリズム広がる南アフリカ

 南アフリカの主要都市では予てより職を求めて流入してくる貧しい移民が社会問題となっています。ナミビアやボツワナ、ジンバブエといった経済不安が叫ばれる隣国から来る移民の多くが都市圏にタウンシップと呼ばれるスラム街を形成して、中産層以上をターゲットとした強盗や殺人を繰り返しているのです。2018年9月には、南アフリカ警察省が戦時中に匹敵するほどの年間死亡者数に達しているとの声明が発表され、古くから南アフリカに住む国民を騒然とさせました。

 また2019年5月に実施された南アフリカ国会選挙でも、世界的な右翼ポピュリズムの隆盛から黒人至上主義を掲げる経済自由の戦士(EFF)や、白人極右政党の自由戦線プラス(FF+)が議席を伸ばす結果となり、職を求めて流れてくる貧しい移民への風当たりがより一層強まっています。こうした外国人排斥の世論は南アフリカ国内で商売をするため、経済移民として定住したナイジェリア人などの生活にも悪影響を与えています。アフリカを代表する経済大国でもある南アフリカには職を求めて流入する貧しい移民だけではなく、ビジネスチャンスを狙って移住して来る外国人も少なくありません。ナイジェリアは近年、潤沢なオイルマネーで国内経済が好調なことを支えにアフリカ諸国への影響力を拡大しています。新たな商機を掴もうとせんとするナイジェリア人実業家が南アフリカに移住して、都市圏を中心にビジネスを展開するブームも起きています。そうした、国際自由経済に準拠した競争のあおりを受けて南アフリカ人の雇用が奪われていると、南アフリカのポピュリスト達は激高しているのです。

 外国人スラム街に定住する移民への嫌悪感からはじまり、大衆がナショナリズムを支持する世論が盛り上がった末。経済移民にあたる外国人実業家も南アフリカに害する存在として目の敵にされている訳です。そして、2019年9月に入ると不満がついに大きく目に見える形で暴発しました。

外国人への暴行略奪

 ナイジェリアをはじめとする対外国人の憎悪心が増幅しつつある南アフリカ国民は国会選挙後、次第に外国人の資本が入る小売店や飲食店を襲撃するようになりました。8月末になると歯止めが難しい状況となり、最大都市ヨハネスブルクで9月1日から続く暴動では死者や逮捕者が続出する事態に発展しました。

 主に高級住宅街のアレクサンドラ地区を皮切りにはじまった暴動の参加者は外国人が経営する商店を襲い、店内にある食料品を無断で強奪するなど憂さ晴らしのように犯罪行為に手を染めています。地元警察もゴム弾で暴徒たちの鎮圧にかかっていますが、事件発生から3日経つ頃には暴徒が斧や鉈を持って外国人や警察に抵抗する混沌とした状況となりました。南アフリカのシリル・ラマポーザ大統領も「全く容認できない不当な暴力行為であり、法の支配に反する行為だ」と強く非難し、5日の演説では423人の逮捕者と少なくとも10名が死亡した旨を公表しました。治安維持部隊を管轄するベキ・ツェレ警察大臣も「政情不安を利用した犯罪行為」と集団犯罪に手を染める暴徒に嫌悪感を顕わにしています。

 こうした外国人経営の店をターゲットとした暴動が鎮静化しない社会情勢に、南アフリカ在住ナイジェリア人の心境は穏やかさを失いました。南アフリカで事業展開していたナイジェリア人実業家は「友人のエチオピア人実業家の小売店が略奪被害に遭った。これからはナイジェリアに帰国して衣料品事業をしたい」と、混乱が広がる南アフリカの事業から手を引く考えをCNNに吐露しています。ナイジェリアの不動産会社ランドウェイ・インベストメントも南アフリカ在住ナイジェリア人の危機的状況に、ナイジェリアの民間航空企業エアピースと結束して無料で帰国できる飛行機を2便手配。最初の便で187人がナイジェリアに緊急帰国しました。エアピースのアレン・オニエマCEOは公式の場で「ナイジェリア人を犯罪者扱いする南アフリカ国民の言動を支持しない」とし、今後も南アフリカ在住ナイジェリア人の早期帰国に努めていくと明言しました。

 オニエマCEOの対応にナイジェリア国会も感謝の意を送るだけでなく、国民の安全を確保するため支援してしく方針を発表しています。対して南アフリカ政府は事態を収められない様子から国際的な非難を浴びており、南アフリカ政府の閣僚は外国人の集団襲撃事件の謝罪に追われています。

ナイジェリア人の報復行動

 民間企業による緊急帰国キャンペーンに多くの南アフリカ在住ナイジェリア人が反応する動き併せて、ナイジェリア政府も南アフリカ国民の外国人襲撃に断固として非難を続けています。ヨハネスブルクでの暴動が発生してすぐ、ナイジェリアはザンビアとアフリカ連合(AU)と歩調を合わせていち早く懸念の声明を発表しました。

 国際舞台でもナイジェリアは外国人への無慈悲な人権侵害に対する抗議として、南アフリカのケープタウンにて9月4日~6日に開催された国際経済フォーラム(WEF)の場で機構の脱退を表明しています。当日はフォーラム会場前にも反発心を抑えられない南アフリカ国民が大挙して押し寄せており、参加したアフリカ各国閣僚もアフリカ経済を停滞させる大きな不安定要素となるとして懸念の声を挙げました。ただ、足元のナイジェリア国内では南アフリカ企業に対する報復暴動が発生しています。特に南アフリカの大手小売企業Shopriteや携帯通信会社MTNに関連する施設は軒並み破壊され、ナイジェリアのムハンマド・ブハリ大統領は「ShopriteもMTNも南アフリカ企業だが、双方ともナイジェリア人が経営する子会社だ」と強調し、「施設はナイジェリア人実業家が経営するナイジェリア国内の資産で、そこで働いているのはナイジェリア人だ」と無意味な社会混乱しか招かないとして警鐘を鳴らしました。

 事態解決に向けて、ブハリ大統領は2019年10月中に南アフリカへ来訪して具体的な解決策を話し合う予定です。しかし、外国人襲撃の報復暴動によって在ナイジェリア南アフリカ大使館が一時閉鎖に追い込まれるなど、民間レベルで憎悪感情の増幅が加速しつつあります。

ナショナリズムの広がりを止められない

 南アフリカでは過去にも幾度か外国人をターゲットとした暴動が発生していますが、今回のような南アフリカ在住の外国人実業家が母国へ帰国する事態に発展するのは初めてです。祖国へ戻ったナイジェリア人は政府の支援を受けて生計基盤を立て直せるとはいえ、南アフリカに残した資産を再び取り戻すことは叶わないでしょう。

 そもそも、暴動発生の原因は南アフリカの隣国から流入する貧しい移民による就職口の奪い合いからです。それが転じて、外国人実業家にも被害が及ぶようになったのは、新興国として国際市場から注目されてきた南アフリカ経済にとってもマイナス材料にしかなりません。一方、ナショナリズムが隆盛する南アフリカの国内世論によって今後も外国人の襲撃に拍車がかかる恐れもあります。アフリカを代表する経済大国間の国際問題に発展している外国人襲撃騒動ですが、双方の国内でも民間レベルで報復暴動が広まっており、両国政府が解決策を発表しても一朝一夕では事態の鎮静化は図れないでしょう。