インド海軍が救助体制備えるも災害支援要請しない日本政府

 観艦式参加のため来日したインド海軍が2019年台風19号(英名:Hagibis)の甚大な被害の救助支援に備えて、観艦式が中止になっても横須賀に停泊し続けていました。しかし、肝心の日本政府から救助要請が申請されなかったためか、10月17日をもって帰国の途に就いています。今年に入ってインド海軍は母国で発生したモンスーン被害で立ち往生した列車の乗客を救助するなど、大規模災害の救助活動に実績を残してきました。

モディ首相からの声かけ

 超巨大台風として甚大な被害を残したHagibisによって、関東甲信越の河川沿い地域では浸水被害が多発しました。農業地帯では泥水によって農作物が出荷できなくなり、住宅地では床上浸水によって生活再建に頭を悩ませる人々が今も全国各地にいます。死者数もすでに70名を超える激甚災害として各メディアも日々被災状況を伝えるのに必死です。

 そして偶然ですが、インド海軍をはじめとする諸外国の海軍艦船が日本政府の手招きにより観艦式に参加するため横須賀に停泊していました。言うまでもなく、Hagibisの襲来によって観艦式は中止となりましたが、インド海軍の艦船「サヒャディ」「キルタン」とシンガポール海軍の艦船「フォーミダブル」は横須賀に停泊を続けます。すると、普段はTwitterでヒンドゥー語を中心に発言するインドのナレンドラ・モディ首相が「現在日本に駐留中のインド海軍も、必要な支援を提供する用意ができています」と日本語ツイートをしました。観艦式に合わせた積載物を積み、災害対応機材をそれほど載せていないであろう艦船の状況を度外視して、モディ首相は国家元首として災害対応に応じたい意思を明確に示したのです。この発言にTwitter上では「ありがとうございます」「励ましの言葉ありがとうございます」「日本はインドに心からの敬意を表します!」とのリプライが大量に投稿され、如何に日本国内で救助や支援を求める声が多いのか如実に示されました。

 巨大台風による影響は首都圏の交通機関を麻痺させ、開催中だったラグビーワールドカップ予選リーグの一部試合も中止を余儀なくされました。こうした日本国内の非常事態に最大都市ムンバイ近くで7月発生した水害を憂慮したインド人民として、モディ首相も日本の被災状況を心配したことは予想に難しくありません。

水害に悩まされるインド

 日本では近年、地球温暖化による海面水温の上昇で台風の勢力が強まり過去と比べて記録的な被害が発生しています。インド周辺の南アジア地域でも同じくモンスーンによる水害被害が拡大しています。隣国パキスタンの港湾都市カラチでは2019年9月、不衛生な都市環境に浸水被害が併さって大量のハエが発生する公害が社会問題となりました。

 インドでも雨期になれば全国のどこかで洪水被害が発生するのも珍しくなくなってきました。7月にはムンバイ近くの河川が決壊し、夜にムンバイを出てインド北東部のコラプールを目指していた急行列車「マハラクシュミ」が立ち往生する事件が発生しました。地元当局は状況が明るみとなる翌朝を待ってインド海軍国家災害対応部隊に救援を要請、列車が立ち往生してから約12時間後に海軍救助部隊がおよそ800人の閉じ込められた乗客の救助作戦を実施しました。さらに、9月末にネパールとの国境沿いに位置するビハール州で発生した水害でもインド海軍国家災害対応部隊が救助活動に入り、1万人にも及ぶ一般市民を救助しています。立て続けに水害の被災者を救助してきたインド海軍や政府にとって、日本の巨大台風による災害発生は他人事では済まされなかったのです。

 モディ首相が日本の被災地支援をしたい姿勢を示したのは、浸水災害が肥大化している国同士の助け合い意識があったのも一つの要因でしょう。観艦式に参加した艦隊部隊も配属が違うとはいえ、いざ日本で災害が発生したら災害救助へ向かうつもりでいたことも容易に想像できます。しかし結果として、インド海軍はHagibisの被災支援救助にあたることなく帰国しています。

助けを呼ばない日本政府

 浸水被害の当事国としてHagibisによる被災の復興支援をしたいとモディ首相が表明したにも関わらず、なぜインド海軍艦船は母国へ帰っていったのか。一言でいえば日本政府がインド政府に災害救援要請を行わなかったと考えるのが妥当です。どこの国の軍隊でもそうですが独裁軍事国家でもない限り、軍は政府などの直属機関からの指令や要請がなければ作戦行動を執ることができません。遠路はるばる横須賀に来航して、目の前で未曾有の災害が発生しようとも当該国政府から助けて欲しいとのお願いがなければ勝手に行動できないのです。

https://twitter.com/Asuka_SGP/status/1183701095563923456

 そうした事情から、Hagibisによる被災状況が報道で次々に明るみとなっても横須賀に停泊するインド海軍の艦船「サヒャディ」「キルタン」のクルーは待機せざるを得ませんでした。そして10月17日、日本政府から何の救助申請もなかったであろうインド海軍艦船2隻は横須賀を出港、翌18日に佐世保港を経由てインドへ帰国。モディ首相の善意の声掛けが無視される格好となりました。同様に災害支援を想定して停泊を続けていたと推測されるシンガポール海軍の艦船「フォーミダブル」も19日に横須賀から出港しており、観艦式で来日した上で被災支援にも応じてくれたと見込まれる外国艦船は全て帰国ました。

 対して、日本政府はHagibisによる復興復旧支援のため国家予算予備費5,000億円のうち7億円ほどを支出すると発表しましたが、安倍政権はすでに諸外国の多額なインフラ支援援助やきな臭い噂が絶えない加計学園や吉本興業に100億円を投資しています。多くの国民が生活再建に不安を抱える状況下にも関わらず、なぜ日本政府は必要な災害復興支援に手を抜く姿勢を示すのか。そして、なぜ横須賀に停泊していたインド海軍やシンガポール海軍に救助支援などを要請しなかったのか。被災者の怒りは募るばかりです。

日本政府は米軍以外の支援を受けたくない?

 思えば、これまで日本政府は如何なる激甚災害に見舞われようとも、支援物資や金銭的な支援を除いて被災地の現地復興は自衛隊とボランティアが担ってきました。東日本大震災の際はアメリカ軍が「トモダチ作戦」を展開していますが、それ以外に外国軍が日本国内の地震や洪水の復興支援に参加した事例は無いように思います。

 裏を返せば、日本政府は災害が多発する国土を有しているにも関わらず、アメリカ軍以外の外国軍による災害支援活動を容認したくない姿勢も伺えます。現にインド海軍は自国領内で国家災害対応部隊が被災現場で活躍していますし、来日して目の前の被災地支援に加わりたいインド海軍艦船クルーは他国軍に比べて多かったのではないでしょうか。ですが、安倍政権は米軍にすり寄る姿勢を示したい根底の考えだけでなく、新興国インドに救援を依頼すれば支持母体の日本会議に何を言われるか分かったものではありません。結果、多くの国民が被災地で苦しんでいるにも関わらず日本政府、もとい安倍政権はインド政府の善意を足蹴りする態度を示したのです。

 さらに事実上、外国からの被災支援を断った今回の日本政府の対応は国際的に心証が良く映らないでしょう。日本政府は政権の支持基盤を守るがために国民だけでなく、世界各国からの信頼すら失いかねない姿勢を示したのです。一介の国家元首からの支援表明を断ったからといって大きな反動はないかもしれませんが、こうしたアメリカ軍以外からの災害支援の申し出を幾度となく拒否し続ければ日本政府への相対的な信用度の下落は避けられません。